9月15日、ついにハンガリー政府が、セルビア側から入国する難民申請者を強制送還する方針を明らかにした。同国政府は、不法入国者に対して禁固刑に処する可能性にも言及している。ハンガリーは自国へのこれ以上の難民流入を阻止するため、ルーマニアとの国境線上にも有刺鉄線を付した越境防止柵を拡張することも示唆している。極めて強硬な措置である。
この夏以来激化した欧州難民危機問題は、今春起きたギリシャ債務危機問題と並んで、その本質はEU統合の理念と現実の乖離から生じたものである。それ故に、各加盟国ではそれぞれ自国の利害と欧州統合の理念との間のバランス判断に基づいて、独自の対応を模索している最中であると言えるだろう。
これまで多数の難民や移民を受け入れてきた英国やスウェーデンでも、ハンガリーなど中東欧諸国の難民対策に共感する、反EU・反移民政策を掲げる極右、極左政党の政治的影響力が強まっている傾向が見られるようになった(英国独立党やスウェーデン民主党など)。
彼らポピュリスト政治家たちは、欧州統合や人道主義の理念、少子化に伴う労働力の確保を優先するよりも、むしろ難民と移民の流入で国内の失業率や社会保障費支出が増大すること、そして治安が乱れてテロの危険が高まることを懸念している。英国では、来年にも実施されると予想されるEU離脱を巡る国民投票の行方にも、最近の難民危機問題が大きな影響を及ぼすと思われる。
したがって、今年のEUは、ギリシャ債務危機問題と難民危機問題を契機として、創設以来最大の解体と分裂の危機を迎えたと言っても過言ではないと筆者は考える。
他方、我が日本国の法務省は、9月15日、今後5年間の外国人受け入れの方針を定めた「第5次出入国管理基本計画」を公表した。それによると、昨年認定者11人だった難民認定制度については、従来通り紛争理由での申請を認定せず、新たに「紛争退避機会」として人道的配慮によって1年毎に在留許可を与える制度を新設するそうである。
また、就労目的の申請に対する審査を厳格化すると同時に、技能実習制度に対する管理監督機関を設けてその不正を監視し、また、高い専門性や技術を持つ外国人については、経済成長に寄与するとして在留許可を拡大する方向性を示した(『朝日新聞デジタル』9月16日記事)。
こうした法務省の基本方針からは、日本国として難民に対する庇護権を拡大することや、これから急速に進む少子高齢化に伴う若年労働力の減少を移民労働力で補うという政策転換については、まだ先送りすると言う意思が見えてくるのではないだろうか。
そこで昨日、筆者の興味を引いたのが、Yahoo!ニュースとAERA編集部が共同企画した「みんなのリアル~1億人総検証」の第1弾である、「なぜ嫌婚?独身たちの主張なき抵抗」という記事なのであった。筆者には、日本も他人事として無視できない難民危機問題と嫌婚問題の間に、大きな政策的関連性があると思えたからである。
記事の内容は、社会学者とブロガーの女性2人と男性学専門家の男性1人というお三方の「結婚は愛かコスパか」をテーマとした対談なのであるが、なかなか示唆に富む記事であった。
まず議論の前提となるのは、2000年代に入ってからの日本における生涯未婚率の急上昇のデータである。1970年代の高度経済成長期には、生涯未婚率が男女とも5%を切っていて、日本は先進国でも珍しい程の驚異的な「皆婚時代」であったという。これに対して、2010年には45~49歳と50~54歳の未婚率平均値を取ると、男性で20%以上、女性で10%以上の未婚率に達している。
このうち、都市居住者で仕事と一定の年収が有るにもかかわらず結婚したがらない「嫌婚派」については、コスパ重視の趣味志向であるとの社会学者・水無田気流さんのご指摘であった。
また、かつての「皆婚時代」に主流を占めていた会社の世話好き上司等による「お膳立て婚」の時代から、SNSが発達した現代は、相手に対する十分な情報収集の結果選択した「恋愛」を経由した上での「自己責任婚」の時代に変貌しており、結婚相手の理想像が「ハイパーインフレ状態」を起こしているそうなのだ。
最近指摘される所の、男女ともに自分と同レベルの相手を求める「同類婚志向」も、この緻密な情報収集による恋愛経由の「自己責任婚」時代の傾向が反映されているらしい。
面白いのが、それでいて男女ともに「皆婚時代」の「ジェンダー・セグリゲーション(性別分離)」の価値観に今なお束縛され続けており、男は女性に積極的にアプローチしてデートでも奢ってやって、将来は「一家の大黒柱」となるような昭和の男的な気概が求められ、逆に女性は「専業主婦」になって家庭を守ると言ったテンプレートに対するプレッシャーに晒されているという、水無田さんの分析である。
それにも拘らず、「皆婚時代」のようなお膳立てされた誰でもいいから結婚しようでは今はダメであって、大恋愛を経由した上での結婚でなければいけないことになってしまったらしい。
筆者が思うに、「同類婚」に拘りすぎると、選択肢が狭まりすぎて結婚相手が見つかりにくくなる。殊に俗に言うハイレベル同士の男女間では、ほとんど結婚相手を見つけ出すことが出来なくなってしまうのではないか。おまけに大恋愛まで経なければならないとすれば、これはもう浜の真砂の中から真珠を見つけ出すくらい困難な事業になってしまうに違いない。
その結果、日本での生涯未婚率、換言すれば嫌婚率が上昇し続けることになる。そして、増々日本の少子化が進んで、いつか国内の若年労働力を補充するために移民を受け入れることを真剣に考えなければならない時代が到来することだろう。
つまり、現在欧州が危機に陥っている難民・移民の受け入れ問題は日本にとっても決して他人事ではなく、このまま日本人男女の生涯未婚率が上昇し続けて少子化がさらに進展していけば、労働力として政策的に外国人を受け入れざるを得なくなる時が来るかもしれないのである。