来年度都立高入試から、標記のとおり、例年2月末の筆記試験で実施される学力検査が全日制高校で原則5教科、内申との割合が7割の比重を持つように入試制度が簡略化されるそうである。ちなみに筆記試験の無い実技科目4教科については、内申点の算出において主要5教科の2倍に拡大するとのことである。なお、別途推薦入試が行われることは変わらないそうだ。
実は筆者は70年代末に神奈川県立高校を卒業したため、神奈川方式の高校入試制度として悪名高い所謂ア・テスト(入試での「学力検査」とは別に行われる「中学校学習検査」のこと)を、中学2年生の3学期に受験した経験がある。
この神奈川方式とア・テストなのだが、今回の都立高入試制度変更の趣旨とは全く逆の意図を持った制度と言えると思う。そこで、今日はその点について、筆者の感想を述べてみたい。
当時の神奈川県の高校入試制度では、公立高校間の学力格差をなるべく解消し、入試における塾や業者テストの影響力をなるべく排除する目的で、中学校2年生の3学期にア・テストと称して、実技科目を含む何と9教科全てで筆記試験を実施していたのであった(様々な批判を受けて、ア・テストは1997年に廃止された)。
筆者が高校受験した当時の割合では、中学2年2学期と中学3年2学期(だったと記憶している)の内申点合計が50%、ア・テストと入試当日の学力検査がそれぞれ25%の比率で換算され、受験生各自の合否が決定されたのである。
そして、このア・テストが何とも不思議なテストで、実技科目についても全て筆記試験で行われた。そして、中学校2年生時点での生徒の学習到達度の測定がア・テストの目的とされていたため、試験の出題自体は非常に簡単な問題が多く、確か各教科50点満点で学区トップ校を目指す生徒の場合、およそ8割から9割は得点できる程度のレベルに過ぎなかったのである。
問題は、ア・テスト終了時点で高校入試換算点の4割以上が決まってしまい、その時点で各生徒が進学できる公立高校がほぼ決定してしまったことである。神奈川方式の高校入試では、何と75%がその生徒の中学校時代での成績に左右され、高校側の選抜材料はわずかに25%に過ぎないことになる。
しかも、各生徒が中学2年を終わる時には進学すべき公立高校がア・テストの成績で「輪切り」で既に決定されており、3年生になってから頑張っても逆転はほぼ不可能であった。この早過ぎる選抜が、生徒や親たちの多くの批判を当時招いていたのであった。
筆者のケースで言うと、中学2年生の時に少し勉強をさぼって油断していたため、ア・テストの成績が余り芳しくなかった。本音では、実技科目の筆記試験などバカらしくて、本気で取り組む気分を持てなかっただけなのであるが。
しかし、当時流行った「15の春を泣かせるな」の標語のとおり、神奈川方式の効用としては、確かに中学の勉強だけをしていれば学区トップ校に合格することが出来たので、当時ほとんどの場合に塾や業者テストに頼る必要が無かったことは言えるだろう。公立校と併願する私立高校でも、当時はア・テストの成績で今言う所の事前確約が取れることも多々あったと思われるので、その意味でも高校入試の激化を一定程度緩和する効果が有ったと言ってよいと思う。
そこで、今回の来年度からの都立高入試制度改革との比較であるが、都立高入試では主要5教科についてはもはや中学校の内申点はほとんど考慮されないと言ってよいと思う。中学時代の内申点については、実技4科目に焦点を絞って各自が取り組めば十分なのではないだろうか。
今後、都立日比谷高校を狙うような高い学力を持つ生徒にとっては、来年度の入試から当日の学力検査一発の勝負になる公算が大きいだろう。彼らの場合、内申点でさほどの差は付かないと思われるからだ。逆に言えば、単純明快な学力重視の高校入試に回帰する方向で、今回都立高校が制度を統一する舵を切ったと言えるのではないだろうか。
現時点では神奈川県の公立高校入試制度の方がなお複雑なようだが、いずれ神奈川県でも都立高校と同様の入試制度を踏襲していくことになるのではないかと筆者は思う。過去の入試制度変更では、多くの場合そうだったと言えるからである。
その他にも、関西の関大一高の不透明な入試制度で最近問題になったが、中学との「事前相談」による一般入試不合格者より遥かに低得点の事前合格確約者の大量輩出に関しても、公立高校入試制度が一発勝負の学力重視に舵を切ることで大きな影響を与えるだろう。
これらの高校は大抵の場合公立高校の併願校であり、少子化時代に生徒を確保するために事前の併願確約を実施しているからである。ただ、その「事前相談」に塾とそのテストの成績が絡んでくると、問題が一挙に不透明化するのだろう。
筆者としては、高校入試では内申点など軽視して、学力検査一発勝負にかけるのがむしろ正しい方向性だと思う。長い人生では、ただ1日の勝負に向けて1年以上の努力を積み重ねる貴重な経験を、中学生の早い段階から体験させておくことが、むしろその生徒にとって有意義だと考えるからだ。
ただし、学力検査一発勝負を重視すればするほど、高校入試における塾や予備校、そして業者テストの役割が高まっていくことには親と教師も十分な注意を払っておく必要があるだろう。大学入試と高校入試が、内申点軽視で次第に同じようなものになっていくからである。
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