2015年6月25日木曜日

Vorkers、JTBとHISの社員満足度の違いに関する感想

 昨日のダイアモンド・オンライン(http://diamond.jp/articles/-/73759)に、Vorkersによる第4回連載として、「JTBHIS、有給消化率2倍の差から見える実態」という記事があったので筆者も眺めてみた。ちなみにVorkersとは、就職や転職に関連する企業クチコミ情報を提供するウェブサイトだそうである。

 言うまでもなくJTBは日本の旅行業界を代表する老舗であり、一方のHISは格安旅行で名を成した元ベンチャー企業である。したがって、JTBは高度経済成長期以来の終身雇用制度を維持しているのに対して、HISは社員の年齢に関係無く実力主義的で、若手の裁量権が比較的認められる社風の様であった。

 記事によると、JTBはコンプライアンスと企業倫理が確立された正社員が安心して働くことができる環境である一方で、異動が多く業務も保守的でルーティン化されているものが多いため、専門性が身に付きにくく、個人のキャリア形成がしにくい環境であるそうだ。同社は、典型的な日本型大企業の社風と言えるだろう。

 これに対してHISは、研修より直ぐ現場に配属してOJTで社員を育成するシステムを取っているそうで、数字による実績が重視され、若手社員の離職率も高めであるとのこと。この点で、柳井正さんが代表取締役会長兼社長として率いる「ユニクロ」の持株会社ファーストリテイリングにどことなく似た社風の様だ。

HISについては、社員と元社員のクチコミで、トップダウンによる見切り発車で現場軽視の業務命令に不満が述べられている点でも、柳井氏のカリスマ性が社風に占める割合が大きいと思われるファーストリテイリングのケースに類似していると思われる。

 だが、筆者が興味を持ったのは、こうした両社の社員・元社員のクチコミ情報ではなく、両者のワークライフ・バランスに関する具体的なデータの方である。

 例えば「月間平均残業時間」については、JTBが52時間、HISが58時間であるそうだ。これは同じVorkersの調査したデータによると、JTBの残業時間はIT・通信業界の残業時間とほぼ同等であり、HISのそれは情報サービス、リサーチ業や金融業の残業時間とほぼ同等である。

 ちなみに労災の過労死認定基準となる月間平均残業時間は80時間であり、これを超える残業時間を記録しているのはコンサルティング業、シンクタンク位であるそうだ。ただ、自分もそうであるが、調査研究業務については資料や設備の整った職場に残ってした方が自宅でするよりも集中できて効率的な場合が多々あるので、コンサルタントやシンクタンクで働く研究者は、長時間の残業を自主的に行っている可能性も大きい。

 いずれにせよ、「月間平均残業時間」の点で見れば、JTBHISも他のサービス業よりも残業時間が多いとは必ずしも言えない様だ。ただし、旅行業界の持つ特性から、部署にもよるだろうがゴールデンウィークや夏のハイシーズンには激務を強いられるだろうし、エクスペディアに代表されるオンライン旅行会社と比べてシステムが未だ合理化されておらず、労働集約的で社員個人の犠牲に業務遂行が依存している部分が多く残されている点は、今後改善すべきだろう。

 次に「有給休暇消化率」で見ると、JTBが56.4%であるのに対して、HISは28.1%とかなり低い消化率である。HISさんは、社員の皆さんのワークライフ・バランス改善の観点から、有給休暇消化率を高めていく必要があるだろう。そうした企業努力が、女性の活躍と日本の少子化対策に直結するからだ。

 筆者のような研究者は、先述したとおり自主的残業が多いのであるが、政府が今国会に提出している労働基準法等の改正案では、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションの来年4月からの導入が、アベノミクスの成長戦略の一環として盛り込まれている。

 この改正案が今国会で成立すれば、年収1075万円以上の高度な専門職を対象に、週40時間の労働時間規制が外され、会社は一切の残業手当や深夜・休日労働に対する割増賃金の支払い義務が免除されることになる。

 制度導入派である財界の意図は、広範囲の裁量権を持つホワイトカラーに対して生産性を向上させ、成果による評価と処遇を行うことにある。しかし、日本企業では個人の職務の詳細なジョブ・ディスクリプション(職務内容記述書)が定められていないため、成果が適切に評価できないし、チームワークでの業務遂行上、個々の役割分担も曖昧なので成果主義が必ずしも馴染まない問題がある。

 その上、残業過多の社内環境が恒常化している場合には、容易に長時間労働とサービス残業が常態化する恐れもある。この危険性こそ、導入反対派が同改正法案を「残業代ゼロ法案」と揶揄する所以である。

 もっとも現状においても、管理職はいくら残業しても残業代は付かないのだから何も変わらないとも言えるし、そもそも筆者のような研究職は、好きで夜遅くまで職場に残って自主的に仕事をしているわけだから、制度導入趣旨の対象外であるとも言える。それでも、ホワイトカラー・エグゼンプション制度の選択はあくまでも労働者個人の自主性に委ねられるべきであるし、過労死しない程度に労働時間の上限は設けた方が良いのではないだろうか。

 JTBHISの話題から随分と脱線したが、海外旅行にかなりよく行く筆者の感想では、両社のサイトはエクスペディアと比較すると、オンライン予約の使い勝手が未だ十分に満足する水準に達していない。海外旅行オンライン予約のヘビーユーザーとしては、検索一発で空室があるホテルと空席が残っている格安航空券のセットが、バババンと表示できるサイトを作ることを、JTBHISには共に目指してほしい。

 それと、飛行機の座席指定とホテルの朝食セットも検索時点で直ぐ出来るようになれば、海外旅行のオンライン予約サイトとしては、JTBHISもまずまずの使い勝手の良さになると筆者は思う。ちなみにエクスペディアについては、一旦予約が成立するとキャンセル不可が多いのが、同社のシステムの最大の欠点であると筆者は考える。それだからこそ、エクスペディアが格安なのかもしれないのであるが。

2015年6月24日水曜日

シリア、イラクでの有志連合軍の対IS二正面作戦の効果に関する考察

 既に先の投稿で述べたとおり、アメリカが主導する有志連合軍による対IS空爆は、昨年8月からイラクで、そして9月からはIS武装勢力の策源地であるシリアで、それぞれ二正面作戦として現在実施されている。

 その結果、ISメンバーはこれまでに月間約1千人、合計1万人以上が有志連合軍の空爆作戦で殺害されたと米国務省が述べている。ISの戦闘員総数は約3万人と見積もられているから、外国等からの戦闘員補充が継続しているとはいえISの戦闘力にとっては相当なダメージだろう。しかし、昨年6月10日にISがイラク北部の要衝モースルを制圧して以降、なおISはシリア全土の約50%、イラク全土の約3分の1を合わせた約30万㎢の領土を(人口希少であるが)支配下に置いている。欧米諸国の望むIS根絶には、まだほど遠い状況にある。

 アルカーイダなど従来のイスラーム過激派と異なるISの存在意義は、イラクとシリアの間に欧米列強によって引かれた国境線を解体し、一定の領土を支配する「カリフ国」を存続させることにある。

したがって、ISが5月にイラクのアンバール県の県都ラマーディーとシリアの世界遺産都市パルミラ(タドモール)を相次いで占領することに成功したことは、イスラーム世界におけるISの存在意義を象徴的に強化したと言える。逆に言えば、イラクとシリアの現政権にとっては自らの政権存続の正統性をさらに弱める非常に手痛い失態となった。

 特にシリアでは、2011年3月から4年以上続く内戦による死者が23万人以上に達しており(ロンドンに拠点を置くシリア人権監視団の統計による)、イラクとは比較にならない今世紀最大の人道的危機状態にある。シリア政府軍は2月に北部主要都市であるアレッポでの反体制派に対する攻勢に失敗し、アサド政権を支援するヒズブッラーとイランのイスラーム革命防衛隊も同月シリア南部での反体制派制圧に失敗した。

 3月にはヌスラ戦線等が率いる反体制派連合がアレッポ南西にあるイドリブを制圧し、5月にはアサド政権の基盤である地中海沿岸地帯とアレッポを結ぶ交通の要衝であるジスル・アッシュグールも反体制派が押さえた。最近のアサド政権軍の退潮は顕著である。

 他方、ISも6月15日に、クルド人民防衛隊(YPG)の攻撃でラッカ(ISが首都と宣言している)とトルコ国境を結ぶ交通の要衝であるテル・アビアドを喪失した。6月23日には、これも要衝であるアイン・アイーサもYPGが占拠した。これでISは、トルコからラッカへ通じる最重要の補給路をクルド人に絶たれたことになるとともに、アレッポへ繋がる交通路も一部遮断されたことになる。米国家安全保障会議(NSC)元イラク部長のダグラス・オリバンド氏が今月指摘したように、確かにISの領土拡大には限界が見えてきたようだ。

 ISの領土拡大は、政権基盤の脆弱なスンナ派地域では現地住民の支持を何とか得て成功しているが、イラクでもシリアでもクルド地域ではむしろ苦戦していると言えるだろう。

 有志連合軍はこの機を逃さずISの領土拡大を押し戻して、ISの存在意義を破砕する作戦を選択すべきだろう。そのためには、有志連合軍は、シリア国内でISと戦っているアサド政権かヌスラ戦線などの反体制派か、現状において二者択一でいずれも好ましくない相手との事実上の連携を選択せざるを得ないシリアでの作戦遂行よりも、まず、イラクでの対IS作戦を優先すべきであろう。従来のシリア、イラク二正面作戦を少し転換して、まずイラク西部での対IS掃討作戦に重点を置くべき時期ではないだろうか。

 そのためには、アメリカはバグダードのアバーディ政権が過度に依存しているシーア派民兵組織とイラン・イスラーム革命防衛隊とのアンバール県での対IS 共同作戦を止めさせ、スンナ派の安全を保障して現地の部族勢力を対IS戦闘に参加させる方向性を模索するべきだろう。

 筆者の分析では、今年に入ってからのISは有志連合軍の空爆による戦闘員の減少に加えて、トルコ国内やシリア政府に対する密輸が主な収入源であった石油売却益が大幅に減少していると見られ、資金的にも苦しい状況に陥りつつあると考える。スンナ派取り込みという戦略が明確に規定できるイラクでの攻勢をまず優先し、戦略が規定できないシリアでは当面現状維持を図るのが、有志連合が採ることのできる現実的な選択肢ではないだろうか。

2015年6月22日月曜日

AERA6月22日号、「結婚はコスパが悪い」「同格婚のジレンマ」「独身男子のホンネ座談会」に関する感想

 AERAの6月22日号で、「嫌婚の正体」と題する特集がされていた。「嫌婚」という用語が耳馴れず面白かったので、筆者も読んでみると、最近の婚活男女の方々の意見がよく理解できる内容でなかなか興味深かった。そこで、今日はこの特集について筆者の感想を述べたい。

 まず、結婚に対する価値観の側面から「嫌婚の正体」に迫った「結婚はコスパが悪い」という記事には、なかなか結婚に踏み切れない男女数人の意見が述べられていた。1人は、キャリアアップを優先し、恋愛は後回しにしている「力み過ぎ型」の31歳の男性で、この人は、彼女は今すぐにでも欲しいし、結婚もしたいが、相手が見つからない(10頁)そうだ。

 もう一例は36歳の女性で、「(彼のために)尽くしたけど、ダメになったとき手元に何も残らなかった。(中略)これほど無駄な時間はないと思った」そうだ(11頁)。さしずめこの女性は、「失恋トラウマ型無気力症候群」に陥ってしまったケースであるとでも言えるだろう。

 また、別の40歳商社勤務の男性は、結婚相談所に頼らないと結婚できない自分が許せない(12頁)。この人は、「プライド肥大型」で結婚できないタイプと言えるだろう。

 しかし、この御三方に共通しているのは、「嫌婚」という用語でその価値観を評価するより、むしろ「避婚」という用語で表現した方が的確に思われる。なぜなら、3人とも決して「結婚したくない」わけではなく、何らかの事情で「結婚に向き合えない」状態に陥っているに過ぎないからである。

 関西学院大学社会学部准教授の鈴木謙介氏の記事中の分析によると、かつての女性の「玉の輿」のような「格差婚」が許容された時代から、現代は、パートナーの収入や容姿のような表面的価値のみならず、内面的な価値観やコミュニケーション能力のハードルまで自分と同等を求める「同格婚」の時代であるそうだ(12頁)。

そして、結婚は生活保障手段としての「必需品」ではなく、「嗜好品」になったという。だが、結婚が「嗜好品」ならば、それを結局獲得できないのは、つまり、生活に余裕の無い「つまらない人生」ということを意味しているのに他ならないのではないか。家族がいる安心感はほかでは代えられない(13頁)ばかりか、筆者にとっては夏休みに世界各地に家族旅行する楽しさだけでも、妻子を持つことのありがたさをしみじみ感じるのだが。

 なぜなら、筆者が仕事の出張でハワイやラスベガスに旅行した時、いくら有名リゾート地で現地の関係者に歓迎されても自分1人では全く面白くなかったからである。やはり、海外旅行は家族で行くのが一番楽しいし、日々のストレス発散の絶好の機会にもなる。これこそが筆者の偽らざる実感であり、それだけでも家族を持つ価値は大いにあると思う。

 ところで、この「結婚はコスパが悪い」の記事よりもっと面白かったのが、独身男子のホンネ座談会「できれば原石級の女性に出会いたい」という記事だった。

 同座談会に参加したのは、30代後半から40代前半でなかなかの年収の独身男性4人(AさんとBさんは年収1千万円超、Cさんは年収約600万円、Dさんは約900万円)とのこと。記事によると、彼らの職業も見た目も特段欠点は無いようで、何で独身でいるのか不思議なのだが、記事を読んだところ、失礼ながら筆者の視点で分析しても確かに婚期を逃すタイプの男性達であった。

 彼らが結婚できない原因について、個別に筆者の所見を述べてみよう。まずAさんは43歳の外科医で医者家系に育ち、彼女はいたものの、「医者の娘と結婚しろ」という親の猛反対を無視して彼女に結婚の意思を伝えた時には既に時機を失し、結局彼女に振られたとのこと。

 彼のケースでは、彼女の方がそれほど彼に魅力を感じていなかったと筆者には思われる。この記事の後にCさんとDさんが指摘しているように、婚活中の女性は通常複数人の男性を結婚パートナーの候補者リストに入れており、その間にシビアな序列を付けている場合がほとんどだ。もしAさんが彼女にとって序列第1位の候補者だったならば、もう少し待ってくれたかもしれない。しかし、相手の親の猛反対は後々の面倒事を考えると、結婚相手とするには痛い。恐らくそういう所が、Aさんが婚期を逃した根本原因だろう。

 Aさんは既に43歳の年齢に達しており、いくら年収約1500万円の外科医でも、子供の大学卒業までの時間を考えると結婚相手の女性は簡単には見つからないはずである。

 次にBさんは地方出身者で、長男だから地元の人と結婚しろと親戚から言われ、東京でできた彼女よりもコンサルティング会社で昇進直後の仕事を優先したために振られたそう。この人の場合、筆者には優柔不断過ぎると感じられる。筆者ならば、仕事と彼女の両方ゲットを当然目指す。Bさんは、昨今多い草食系男子の走りと言えるタイプなのかもしれない。

 Cさんの場合、38歳にもなって母親と同居しているのが決定的にまずい。親より彼女を優先しなければ、そもそも結婚できるはずがない。

Dさんは原石級の女性に出会いたいそうだが、そんな曖昧な指標を掲げているようでは現実的な婚活女性達に敬遠されるだけだろう。彼は、合コンで「年収どれくらい?」と直球で聞く女性に引いてしまうそうだが、婚活中の男性サイドも女性の容姿と年齢をシビアに見定めているのだから、口にこそ出さないまでもこうした条件提示はお互い様である。Dさんはナイーブ過ぎて婚期を逃してしまうタイプであると、筆者には思われる。

 いみじくも記事の最後の方でBさんが述べていたように、結婚適齢期の「30代前半の女性は婚活が業務的!」というのが実態なのである。その程度の女性の合理的思考にショックを受けているようでは、彼らはなかなか結婚できないだろう。