今週発売の『週刊文春』は、舛添要一都知事が2015年内にほぼ毎週末に計48回、自身が経営する舛添政治経済研究所が神奈川県の温泉地湯河原に所有する別荘に公用車を使って出向いていたことを批判するスクープ記事を掲載した。今日はこの問題について、筆者の感想を述べてみたい。
まず、公用車を自宅との送迎に専属で利用できる立場にあるのは、各省庁で言えばいわゆる「政務三役」(大臣、副大臣及び大臣政務官)等の特別職に当たる幹部公務員だけである。都知事は当然特別職だが、今回の問題発覚で筆者がまず気になった点は、舛添知事が世田谷区にあるご自宅に立ち寄った後、改めて湯河原の別荘に向かうことが多かったと指摘されている点がある。
なぜなら、公用車の使用に当たっては、舛添さんが釈明したように、出発地あるいは到着地のいずれかで実際に公務を行っていれば、規則上の問題は生じないからである。したがって、都庁で金曜日に公務を行った後に舛添さんが別荘に直接向かったのであれば、原則として問題にならないはずである。この点については、いずれの報道でも問題視していないようである。
だが、筆者が疑問に感じたのは、知事がいったん自宅に立ち寄ってから改めて湯河原に向かうことが多かったといった点である。なぜなら、常識的に考えて自宅まで公用車が送った以上、そこから都庁に自動車を返す必要があるはずだからである。舛添氏が自宅からさらに別荘まで送らせたということになると、知事の自宅を新たな出発地と見なせばそこで公務を実施するはずはないから、到着地である別荘を公務地であると、どうしても強弁せざるを得ないことになるだろう。
実際、今日の定例記者会見における舛添都知事の釈明では、別荘で静養していることを事実上認めたようだが、同時に公用車は「動く知事室」であると述べ、また、別荘に資料を持ち込んで公務をしていると昨日述べている。これは、彼がいったん自宅を経由していることが多かった事情から、到着地の温泉別荘で公務をしているとどうしても説明せざるを得ない事情が絡んでいると筆者は見ている。
次に筆者が問題だと感じたのは、毎週末の頻度で隣県である神奈川県最南西部にある湯河原の別荘まで、金曜日午後2時半ころに都庁を出発していた点である。筆者の見るところ、都の最高責任者である都知事が金曜の真昼間から執務室にいないという事では、恐らく重要書類の決裁がかなり滞ってしまうのではないかと考える。
都知事の決裁業務がどの程度のものなのか即断できないが、役所という所は、どこでも決裁権者の承認のハンコが貰えなければ業務を遂行することが一切出来ないものである。しかも、筆者の経験上からも、金曜午後は土日の休日を挟んで2日の間が空くことから、割と決済を週内に貰ってしまおうとして公務繁忙なことが多く、その時に肝心要の決裁権者が不在では、結局翌週初めに都知事が登庁してくるまで、あるいは非常に重要かもしれない仕事を開始できないことになってしまう不利益がある。
今回の舛添都知事の金曜午後早くからの湯河原行きが、都庁職員内部からの『文春』に対するリークによるものであるらしいことから考えても、都庁職員内で金曜午後に知事の決裁が取れず、仕事が停滞して憤慨している人が少なからず存在していることをうかがわせるのである。
また、昨日来の報道でよく耳にするのが、危機管理上の問題である。確かに都知事が毎週金土日の3日間都内に不在であって、自動車で到着するまで渋滞が無くとも約2時間はかかる湯河原に居るというのでは、いざ災害やテロが東京で起きた時に対応が著しく困難になってしまうだろう。筆者も本来神奈川県人で、湯河原温泉には時々自家用車で行くことがあるが、はっきり言うと小田原までは都内から比較的スムーズに行けるが、そこから先の真鶴と湯河原の間は海岸線に山が迫っていて道路がほぼ一車線しかなく、ゴールデンウィークなどには軽くその間を走行するのに1時間くらいかかってしまうほど渋滞する。
この点、舛添都知事は都内の奥多摩から都庁に戻るより湯河原から戻る方が早いと言い訳していたが、筆者の実体験では全くそんなことは無い。渋滞に引っかかれば、下手をすると湯河原から都内に戻るまで、4時間くらいかかってしまうことも決して珍しいことではないだろう。
ともかく、都知事の職にある以上、24時間都内に在住していることが公的責務であると舛添氏は認識を改めるべきだろう。もし、東京で熊本や大分が現在見舞われているような震度の直下型地震が土日曜日に起きた場合を考えると、舛添氏がいかに問題は無いと強弁しようとも、彼がスムーズに都内に帰還できる確率は非常に少なくなる。
3人の副知事がたとえどんな完璧な体制下にあって輪番で不在の知事を補佐しているとは言っても、災害やテロが現実に勃発した際の混乱した状況下に自治体最高責任者の知事が不在ということでは、都が迅速かつ一元的な対応を講じることはほとんど不可能となってしまいかねない。もしそうなれば、舛添さんの政治生命は即座に失われてしまうことにもなりかねない。舛添都知事ご本人は、そういったリスクを真剣に考えたことがあるのだろうか。
これは、知事の別荘との送迎に係る公用車利用を、タクシーでの往復運賃に換算して約400万円に上る血税の無駄遣いであるといった観点からの批判よりも、はるかに重大な問題であると筆者には思われてならないのである。
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