2015年6月29日月曜日

オワハラ問題とホワイトカラーの労働生産性の低さとの関係に関する考察

 昨今の売り手市場の大学生の就活において、一部の企業が「就職活動を終われば内定を出す」と学生に誓約書を書かせ、事後の就職活動を阻止して半ば強制的に自社に拘束するような言動をしていることを、「オワハラ」と称するそうだ。

 筆者の就職活動は1985年のバブル期以前であったが、当時から企業による就職内定者の拘束はあった。人事担当者としては、採用予定人数を確保しなければ仕事にならないのだから、売り手市場においては容易に採用内定者に対する拘束が起こり得るだろう。

 筆者の分析では、経団連加盟の大企業が今年度大学新4年生に対する採用試験と面接の開始時期を8月以降に繰り下げるルールを導入しても、恐らく秋口までには内定者をほぼ確保できるだろう。そういう大企業に学生の多くを送り出す一部のエリート大学にとっても、新ルールの影響は昨年までの状況とほとんど変わりなく、就活長期化に伴う学生の学業に及ぼす悪影響も少ないと思われる。

 問題なのは、大企業の採用活動終了後からしか自社の採用活動を行うことができない中小企業と、そうした企業に学生の大部分が就職する一般大学であろう。中小企業にとっては、採用活動スケジュールを遅らせる大企業の新ルールに自社は拘束されないにしても学生の卒業前までに内定者を十分確保できるかどうか見通しが立てにくいし、一般大学としては4年生の就活長期化に伴って学業はそれだけ疎かになり、大問題となりかねない。

 筆者の大胆な意見では、大卒一括採用中心の日本企業の雇用慣行を変えなければ、企業の採用活動時期をどう弄ってもこの「オワハラ」問題の本質的解決には結びつかないと思う。「オワハラ」を無くすには、内定者の4月一斉入社を止めて、ドイツのように大学卒業後に就職するシステムに変えてしまえば、学生も大学の学業に専念できるし、企業もモチベーションの低い学生をエントリーシートと面接で非効率的に選抜するリスクを避けることができるだろう。

 筆者が思うに、日本の主として大企業が大卒一括採用に未だ拘るのは、終身雇用制度と年功序列による正社員の長期雇用を前提として即戦力よりも学生の潜在的能力を重視しているためであり、同期社員の一括入社後行われる研修とOJT、そして人事考課に基づく配置転換によって、長期的に社員の職務遂行能力を高める余裕があったからである。

 しかし、最近の大企業では、従来の職能給に職位給をプラスした年功型賃金体系を廃止し、レート範囲を定めた職務価値給に役割・成果給を加味した役割給に制度移行しつつあると思われる。いずれは、欧米同様の範囲レート型職務給がホワイトカラーの多くに適用される時代に移行していくのではないだろうか。

 仮に、ホワイトカラーの賃金体系が過渡期の役割給を経て段階的に職務給に移行していくという筆者の見立てが正しければ、職務能力の無い大卒一括採用制度は、企業の合理的な採用活動では無くなるだろう。ドイツのように、大学卒業後に求職者が高めた即戦力としてのジョブ遂行能力によって通年採用する方が、企業にとって合理的な採用活動となる時代が来るかもしれない。

 そういう時代には、企業が内定者を拘束するための「オワハラ」などというものは、概念自体が存在しなくなるだろう。

 ただし、ドイツのように大学卒業後高めたジョブ遂行能力だけが就職するための拠り所になった場合には、求職者には卒業後の実務経験を積むことが必須条件となる。例えば、大学卒業後に海外に留学したり、専門学校に通ったり、半年から1年くらいの長期の企業インターンシップに高い倍率を潜り抜けて採用されることが必要となるだろう。

 確かに15から24歳までの若年労働者層の完全失業率は、2011年時点でアメリカは17.3%、イギリスが20.0%、フランスが22.1%と軒並み高いのに対して、日本のそれは8.0%と非常に低い。これはもしかすると、日本企業の大卒一括採用制度による若年層に対する安定的な雇用維持の結果であるかも知れない。ちなみにドイツは、8.5%であった。

 だが、日本企業ではホワイトカラーの労働生産性が極めて低い問題がある。2013年のOECD調査では日本の1時間当たり労働生産性は加盟34か国中20位、また、1人当たりの労働生産性も主要先進7か国中20年連続で最下位であった。

 つまり、日本のホワイトカラーは、労働に対する強いモチベーションに欠けているわけだ。筆者が思うに、その原因は恐らく、職務が曖昧でキャリア形成が必ずしもできないままに人事異動であちこちに配転される日本企業の強固な雇用慣行があるため、自分の仕事に十分な誇りを持てず、労働意欲が湧かないということに主たる原因があるのだろう。

 こうした人事制度と雇用環境が改善されないまま、賃金体系だけが根拠不明な成果給にされたのでは日本企業のホワイトカラーとしては堪ったものではないだろう。まず、ホワイトカラーのモチベーションを高め、労働生産性を向上させることが日本企業にとっては喫緊の課題であろう。

 そうしたホワイトカラー予備軍を大卒一括採用で大量に入社させる、金太郎飴のような日本企業の採用活動を見直せば、内定者を拘束するために「オワハラ」など違法行為ギリギリの活動をする必要も無くなるのではないだろうか。

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