P5+1とイランの核問題に関する最終合意を巡る外相級協議は、ウィーンで6月30日の交渉期限を迎えて大詰めの段階に至っている。現在、7月7日迄の数日間、交渉期限を延長することが模索されているようだ。
交渉では今年4月に合意された枠組み合意をさらに押し進め、イランが原爆1個分の濃縮ウラン製造にかかる期間(ブレークアウト・タイム)を少なくとも1年に延長することをより確実にするために、P5+1はイランに濃縮ウランの備蓄量や遠心分離機数を削減させるだけでなく、さらなる透明性の向上を求めている。
そこで、P5+1はイランに対して、かつて高性能爆薬による核爆弾の起爆装置開発実験を行った疑惑のある首都テヘラン近郊に所在するパルチン軍事施設への査察の立ち入りを要求している。これに対してハーメネイ最高指導者らイラン側は、国家主権に直結する軍事施設への立ち入りについては頑なに拒否する姿勢を崩していない。
イランの核開発プラグラムの透明性向上の代償にP5+1が与えようとしているのは、イランの履行状況を勘案して実施される予定の経済制裁の段階的な解除である。だが、この提案に対してもイランは、最終合意内容の実行初日に全制裁措置の即時解除を要求している。
こうしたイランの強硬姿勢は、筆者が以前に投稿したプロスペクト理論の視点によると、イランが制裁以前の状態を参照点(reference point)に置いて交渉に臨んでいると見ることが可能だろう。つまり、イランの考える現状は、制裁以前の状態から見れば損失の領域に位置しており、したがって現在のイラン側は、リスクを恐れない危険な状態にあるということになる。
イランにとって交渉でのP5+1の要求は、自分の過去の行動を解消し、現在の行動を中止すること、すなわち損失の受入れを強制されていることに他ならない。だが、イランが制裁以前の状態を参照点に置くことは、損切りのタイミングを逸して勝てる見込みの少ないギャンブルに次々に打って出るハイリスクな状態を逆に招きかねないと筆者には思われる。
イランは、参照点を制裁下の現状において交渉するのが適切であろう。プロスペクト理論による分析からは、イランが参照点を制裁下の現状に適切に移動させることができれば、イランは損切りに成功して、これ以上の制裁継続による損失を逃れることが可能になる。
だが、そのためには交渉に当たるロウハニ大統領とザリーフ外相が、妥協を拒むハーメネイ師や議会の強硬派と国民に対して、P5+1からどれだけの譲歩を引き出したか納得のいくように説得しなければならない。これがイランの交渉当事者にとっては、極めて困難な課題となるであろう。
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