2016年2月10日水曜日

日銀のマイナス金利政策導入が裏目に出て、円高・株安を招いた事態に関する感想

 昨日9日の東京債券市場では、長期金利の指標である新発10年物国債の利回りが日本史上初のマイナスとなったことが報じられた。また昨日来の東京株式市場では株価が急落し、日経平均株価が15千円を割った。さらには円高ドル安も進んで、東京外為市場では円ドル・レートが115円を割って、一時114円台前半まで急騰したと報じられている。

 普通に考えれば、日銀当座預金にマイナス金利が導入されれば、株価下落はともかく、円安方向に円ドル・レートがぶれることは想定の範囲内であったはずだ。筆者は経済アナリストではないが、頭を整理するために、今日は敢えてこの金融市場の混乱について考察してみたい。

 まず、日銀が129日の金融政策決定会合で、これまた我が国初の日銀当座預金残高の一部にマイナス金利(平たく言えば、銀行からの手数料徴収)を付する決定を行った背景には、よく言われるように中国経済の景気減速懸念や原油安を背景にした年明け以来の円高・株安傾向に歯止めをかける目的があったのだろう。

 つまり、黒田バズーカ第3弾の大規模な追加緩和策を出して以後の手玉が尽きることを黒田日銀総裁が恐れた結果、ECB(欧州中央銀行)の政策に倣って、異次元金融緩和の発動以来ブタ積みされる一方の日銀当座預金残高を銀行に吐き出させて、企業と個人に対する貸し出しに資金を回させることによって設備投資と消費を喚起するとともに、長期金利を下げて円安傾向を強化し株価を高めに誘導しようとしたのであろう。だが、最近の株式・債券および外為市場の動きを見ると、明らかにこの日銀の意図は裏目に出ているようだ。

 日銀が想定外であったのは、アメリカの景気見通しの悪化と原油安に起因する新興国および資源国経済の先行き不安が強すぎた結果、ドイツの銀行やアメリカのエネルギー企業への信用不安が高まり、28日の欧米株式市場で株価が下落するという事態が起きたことだろう。

 こうなると、日銀が当初想定していた日本国内市場だけの問題ではなくなり、グローバル化した世界中の投資家は、株価下落リスクの高い株式市場から一斉に資金を引き揚げて、比較的リスクの低い円や日本国債を購入する方向に大きく資金を移転させたのであろう。

 その結果、日銀がマイナス金利を導入したにもかかわらず、想定外の円高が引き起こされたのであろう。円高が加速すれば自動車などの輸出産業の収益が当然悪化するし、原油安の結果エネルギー産業の収益も悪化するから、そうした企業の株価が下落するリスクが高まる。

 また、銀行に目を向ければ、マイナス金利の導入で長期金利が下がれば貸出金利も下がって利ざやを稼げなくなり、収益が悪化する。現状のように景気の先行きが不透明なままでは、簡単に企業の設備投資は増えず、必ずしも銀行の貸出金利が下がったからといって貸し出しが増えるとは限らないだろう。その結果、日銀の目論見とは逆に、銀行の収益が悪化して銀行株もさらに下落していく恐れがある。

その上マイナス金利導入で日銀から当座預金残高の管理手数料を取られることになれば、銀行は安全な長期国債購入になお一層走ることになる。長期金利がマイナスに低下して国債価格が急騰しても、それを買っておけば満期までにいずれ日銀が高値で買い戻してくれるから、銀行としては安い貸出金利でわずかな利ざやを稼ぐよりはこちらの資金運用の方が合理的な選択肢と言えるだろう。

 他方、同じ金融機関でも保険会社の方は、保険料で集めた資産を専ら国債で運用して利益を出しているから、マイナス金利は直接ダメージとなりかねない。その結果、顧客に約束した利回りを維持できなくなって、結局保険料を引き上げる方向を選択するかもしれないだろう。

 つまり、今回の日銀のマイナス金利導入政策は、世界経済全体の動向とグローバル化した投資家の思惑による資金の急激かつ不安定な移動の前に、為すすべもなく打ち負かされてしまったと言ったところが筆者の偽らざる感想なのである。

 それにしても、長期金利が下落したことによって個人的には住宅ローン金利が低下して持ち家を購入しやすくなるはずだから、これからは住宅投資に期待が出来ると言えるのだろうか。寡聞にして、そうした個人的に大いに興味がある点についての経済アナリストたちのアドバイスを余り聞かない気がする。

世界や日本の経済全体のマクロ分析ばかりでなく、個人的なミクロ分析についても、(先行きが不透明過ぎて専門家にも判断できないのかもしれないが)誰か専門家が的確な見通しを示してくれないものだろうか。

これ以上株価も下がって、なけなしの預金金利が下げられてしまったら、投資額の小さい我々個人投資家は、日銀さんが述べた難解な用語を使えば、老後に備えて一体全体どのように「ポートフォリオ」(資産運用の組み合わせ)を「リバランス」(割合調整)すればよいのだろうか。

 結局、今回の日銀のマイナス金利導入政策の思惑が外れてしまったことで利益を得たのが、国の借金である国債の利払い費が減少することによって最終的には政府だけであったというような、庶民の目からは決して笑えないオチがつかないように筆者は願いたいのである。

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