2015年6月2日火曜日

労働者派遣法改正は、就職氷河期世代の救済案をセットにしなければ将来に禍根を残す。

今国会で審議されている労働者派遣法改正案の主要目的は、最長3年の派遣期間制限を事実上撤廃することにあり、同法案が可決されれば、企業側としては雇用の調整弁としての派遣労働者の活用をさらに行いやすくなるはずである。

 この改正案が成立すれば、短期的な企業の国際競争力の向上と人件費の圧縮に大いに寄与することは確かであろう。その意味では、アベノミクスの成長戦略を後押しする効果が期待できる。

 しかし、他の先進国と異なる日本の労働市場の顕著な特徴として、1993年から概ね10年ほど続いた就職氷河期世代の大量の非正規雇用者を抱えている大問題がある。彼らは現在34歳から44歳くらいの中高年齢層に到達しており、もはや正規雇用への転換が望めない年齢になりつつある。

 NIRA(総合研究開発機構)が2008年4月に出した研究報告書「就職氷河期世代のきわどさ 高まる雇用リスクにどう対応すべきか」によると、就職氷河期世代の非正規雇用者は100万人以上の規模で残存しており、彼らが低賃金水準のまま十分な年金が確保されないままに退職後に生活保護受給状態に陥ったとすると、国は20兆円程度の追加的財政負担を強いられると試算されている(同上、3頁)。

 とすると、今回の派遣法改正は、こうした大量の就職氷河期世代の非正規雇用状態を永続化させる効果をもたらしかねないのではないだろうか。短期的には日本経済の競争力回復にとって効果があったとしても、20年から30年後に国の財政を逆に悪化させる可能性があるのでは、もう少し慎重に考える必要があるだろう。

 例えば、正規雇用者に対するOJT中心の日本企業の能力開発支援制度の下では、非正規雇用者が正規雇用への転換を望んで転職市場に参入しても、それまでの職務経験からは、自己の能力を十分に開発できるような雇用環境に置かれていなかったと思われる。

 また、企業サイドが非正規雇用者を中途で正規雇用者として採用しようとしても、そもそも客観的な能力評価システムがないために情報の非対称性の問題から採用時の評価が困難であるし、日本の未発達な外部労働市場の状態では、就職氷河期世代の正規雇用への転換を政策的に支援することは恐らく困難であろう(同上、15頁)。

 そういうわけで、今回の労働者派遣法改正案が成立して就職氷河期世代が大量に非正規雇用に常態的に留まる結果を招くと、日本は恐らく将来、彼らの貧困化の問題に直面せざるを得ない羽目に陥るだろう。

 非正規雇用者の多数派である既に中高年齢化しつつある就職氷河期世代の人たちに対しては、法案にあるような派遣元による能力開発支援や派遣先への直接雇用依頼だけでは、彼らの正規雇用への転換を促進することはできないだろう。

 おりしも来年1月からマイナンバー制度の導入が始まるが、就職氷河期世代の貧困化を救済するために、我が国も給付付き税額控除制度の導入を本格的に検討すべき時期かもしれない。

もちろん、給付付き税額控除制度を導入するためには、マイナンバーによる名寄せなど税務当局の事務量の厖大化にどう対処するか、源泉分離課税が認められている国民の金融資産所得を税務当局が正確に捕捉するシステムをいかに確立するかとか、また事業所得者と農林漁業所得者の所得捕捉率の向上(いわゆる「クロヨン(964)問題」)などの様々な困難な検討課題が残されているのも事実である。

 しかし、給付付き税額控除制度をうまく設計できれば、増大する非正規雇用者の労働インセンティブの向上や、貧困率の改善などの政策効果が期待できることも確かであろう。

参考文献 
OECD日本カントリーノート「格差縮小に向けて なぜ格差縮小は皆の利益となり得るか」2015年5月21日、

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