ベイズの定理とは、結果(D)の発生後に仮説(H)が成立している事後確率を求める公式を意味する。
すなわち、結果Dの発生後に仮説Hの成立している事後確率・P(H|D)=仮説Hの下で結果Dが生じる条件付き確率・P(D|H)×仮説Hが成立する事前確率・P(H)/結果Dが生じる確率・P(D)の式を用いて、イスラエルがイランを攻撃した後のアメリカの反応(不支持、または黙認を含む支持)から、アメリカの政策決定過程における親イスラエル状態の事後的な主観確率を推定することができる[1]。
※ベイズの定理(公式) P(H|D)=P(D|H)×P(H)/P(D)
P(H|D): 結果Dが生じた場合に仮説Hが成立している確率(事後確率と言う)。
P(D|H): 仮説Hが成立する場合に結果Dが生じる条件付き確率(尤度と言う)。
P(H): 仮説が成立する確率(事前確率と言う)。
P(D): 結果Dが生じる確率。
いま、イスラエルによってイランの核施設が攻撃された後のアメリカの反応を、不支持と(黙認を含む)支持の2つの状態であると考える。その政策決定過程に影響を及ぼすアクターとして、ホワイトハウス、議会の上院と下院、そしてマスメディアの4者を想定する。
この4つのアクターをそれぞれ支持、不支持因子に置き換えた場合に、下記の表のような割合比を構成するものと考える。
そして、アメリカの反応が不支持の時には不支持因子が、支持の時には支持因子が現れたとそれぞれ考えるものとする。
表1 アメリカの反応の支持・不支持因子の割合
政策決定過程の状態
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反イスラエル
|
中 立
|
親イスラエル
|
支持・不支持因子の割合比
|
1:3
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2:2
|
3:1
|
そうすると、公式に代入すべき結果Dは「不支持」あるいは「(黙認を含む)支持」の過去のデータとなる。また、仮説は3つを考えることができ、H1は「反イスラエル」状態、H2は「中立」状態、H3は「親イスラエル」状態である。
この3つの仮説は相互に排反であり加法定理を適用できるから、公式の分母であるP(D)=P(D|H1)+P(D|H2)+P(D|H3)で計算できる。そして、事前確率については、「反イスラエル」状態のP(H1)=0.1、「中立」状態のP(H2)=0.3、「親イスラエル」状態のP(H3)=0.6と、仮に設定して計算する。
以上によるアメリカの反応の事後確率に関する計算結果は、以下のとおりである。
表2 アメリカの反応のベイズ推定
(1) 政策決定過程における状態
反イスラエル(H1)
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中 立(H2)
|
親イスラエル(H3)
|
|
不支持因子数
|
3
|
2
|
1
|
支持因子数
|
1
|
2
|
3
|
(2) 尤度の算出
結果(D)
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P(D|H1)
|
P(D|H2)
|
P(D|H3)
|
不支持(D1)
|
0.75
|
0.5
|
0.25
|
支持(D2)
|
0.25
|
0.5
|
0.75
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(3) 事前確率
反イスラエル・P(H1)
|
中立・P(H2)
|
親イスラエル・P(H3)
|
|
事前確率(初期設定)
|
0.1
|
0.3
|
0.6
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(4) 過去の事例とアメリカの反応の事後確率 ※小数点以下第4位を四捨五入。
攻撃事例
|
アメリカの反応
|
反イスラエル
|
中立
|
親イスラエル
|
0.1
|
0.3
|
0.6
|
||
イラク原子炉
|
不支持
|
0.2
|
0.4
|
0.4
|
チュニス・PLO
|
黙認(支持)
|
0.091
|
0.364
|
0.545
|
シリア核施設
|
黙認(支持)
|
0.037
|
0.296
|
0.666
|
Ifイラン核施設
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If不支持
|
0.082
|
0.431
|
0.487
|
If黙認(支持)
|
0.014
|
0.225
|
0.761
|
この時点では、アメリカは非常に親イスラエル的な状態であったと推定することができるだろう。
しかし、もしも仮に今後イスラエルがイランの核施設を空爆したケースを想定すると、仮にアメリカが黙認(あるいは支持)した場合には親イスラエル状態の事後確率は0.761に上昇するが、逆にアメリカが不支持であった場合には、親イスラエル状態の事後確率が0.487と半分以下の比率に大きく低下することが推定される。
これはアメリカの恒常的な支持に自国の安全保障を大きく依存しているイスラエルにとって、アメリカの意向を無視してイランの核施設攻撃を決行した場合には、無視し難い大きなリスクを伴う結果を招くことを暗示している。
したがって、イスラエルがアメリカに無断で、単独でイランの核施設を攻撃することは事後の対米関係を考慮すれば、極めてリスキーで困難な選択肢であることが予想できるのである。
そのため、イスラエルが対イラン核施設攻撃を実行するためには、付帯条件としてのアメリカの支持が必ず必要であると思われる。
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