2015年5月7日木曜日

毎日新聞の記事「一極社会:結婚「コスパ悪い」」は、ミスタイトルだ。

 今日の毎日新聞の記事「一極社会」では、20代の日本の若者の間で「恋愛の価値」が低下し、結婚が「コスパ(費用対効果)悪い」ものと見なされているというタイトルが付けられていた。面白そうなので読んでみたが、記事のタイトルと主張が合致していない。明らかなミスタイトルで、読者をミスリードしかねない内容であった。

 記事では、少子化が進み、物価が高い東京で、若者の恋愛や結婚観に経済事情が影を落としていると前振りしながら、結婚がコスパの面で割に合わないとする26歳の公務員君の主張の根拠は、もっぱら「特定の相手に一生縛られるのはマイナス」であるという点と、「子供ができれば養育費や教育費もかかる」という2つの点に過ぎない。

 これでは彼は、「何も束縛が無ければ、人は真の自由の喜びを知ることができない」という真理に思い至ることのない、ダン・カイリーの言うところの「ピーターパン症候群」に陥った、幼児性を残した人のように思えてしまう。

 また、彼が本当に子供に対する養育費や教育費を単なる無駄な出費と考えているとすれば、日本社会全体の将来の発展はどうでもよいと考えている、単なる節約主義者か、フリーライダーに過ぎないだろう。彼自身も、恐らく公務員となるまで、両親から養育費や教育費を貰っていたと考えられるからだ。

 「朝倉宗滴話記」に、伊勢宗瑞(北条早雲)を評した話として、宗瑞は「針ほどの細かいものまで蔵に積むほどの倹約をしながら、いざ合戦となれば貴重な玉をも砕いて惜しみなく使う人だ」とあるが、若者は倹約の手段と目的を取り違えてはいけない。

 この公務員君は26歳の若さにして手取り月40万円弱とのことだが、これは恐らく事実ではない。彼がそう主張したのが事実ならば、単なるはったりに過ぎないだろう。公務員は副業が禁止されており、20代のうちは俸給月額も低く抑えられているので、手取り40万円も貰えない。いくら残業しても、不可能だろう。

 記事の主張は、国立社会保障・人口問題研究所の2010年の調査(「第14回出生動向基本調査」のことと思われる)の分析から、日本の結婚適齢期男女の晩婚化が、主として経済的理由にあるとする点にある。非正規雇用が増大して、若い世代の多くが経済的不安を抱いていることが、恋愛と結婚を躊躇させているということが記事の主たる内容である。

 とするならば、単に「コスパが悪い」という心理的理由が、若者の晩婚化の主たる原因ではないだろう。そう思って、原典である調査の結果概要を見てみた。

 すると、いずれは結婚しようと考える未婚者は男女とも8割以上もおり、確かに独身志向の未婚者も増えているが、結婚を先延ばししようとする意識は薄らいでいると分析されている。

 1年以内に結婚しようとする意欲のある未婚者の割合は、男性の非正規雇用者では低い傾向が見られるが、女性では学生を除くと、正規と非正規の雇用者間で余り差が見られないという。

 つまり、晩婚化の原因は、もっぱら家計を支える男性の経済力不足に起因しており、女性では、自分の稼ぎの額はさほど意識されていないということだ。

 独身生活の利点は、男女ともに「行動や生き方が自由」なことと認識されているが、逆に結婚の利点は、「自分の子どもや家族を持てる」が3割強、女性に限ると「経済的余裕がもてる」が15%以上に上昇している。

 したがって、最近の結婚適齢期の日本女性では、特に、独身生活の「自由」と結婚生活の「経済的余裕」のトレードオフについての各人の考え方が、晩婚化の決め手となっている様に思われる。「適当な相手にめぐり会わない」という理由も、相手の「人柄」の他に、現実的には経済力に関する男女双方の要求のミスマッチが起因しているのかもしれない。

 問題は、未婚者のライフスタイルで、「仕事で私生活を犠牲」にしている割合が、男性で50%以上、女性でも45%以上と、1997年の第11回調査と比較してそれぞれ4から6ポイント上昇していることである。これでは、9割以上の未婚者が結婚相手に求める条件として重視している、「家事・育児の能力」を発揮することができないだろう。

 結果を述べれば、今日の日本社会の若者の晩婚化の主たる要因は、単に結婚の「コスパが悪い」と考える若者の心理的な理由などではなく、家計を支える男性の「経済力不足」と、男女ともに「仕事で私生活を犠牲」にしている結果、家事・育児能力を発揮する機会を喪失していることにある。

 このあたりを解決する政策を進めることこそ、日本の少子化対策の決め手となるのではないだろうか。

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