サウジアラビア空軍が主導するアラブ合同軍によって、サアダなどイエメンのフーシー派拠点が連日空爆されている。3月26日から開始された作戦は、4月21日にフーシー派の脅威を排除して目的が達せられたとして一旦終結が宣言されたが、作戦名が変更されて直ちに再開された。
「ヒューマンライツ・ウォッチ」は5月3日、この空爆で国際的に使用禁止とされているクラスター爆弾が使用されたと発表した。クラスター爆弾は、大量の子爆弾を散布して主として人的殺傷を目的とする、非人道的な爆弾である。
そのため、2008年に調印されたオスロ条約で国際的に使用が禁止されている。ただし、サウジアラビアは同条約に署名していない。
サウジアラビアの軍事的能力は、専門家からは非常に低いと考えられている。大量の最新兵器をアメリカなどから毎年多額の軍事費(米中ロシアに次ぐ世界第4位の額)で購入しているが、その運用能力に欠けていると思われているためだ。
特に陸軍は、クーデターを恐れるサウド王家に警戒されて主として辺境に配置されており、その士気も低い。したがって、頼りにならないサウジアラビア陸軍の地上部隊がイエメンに投入される可能性はなく、また、仮に投入されてもイランの支援を受けて実戦経験豊富なフーシー派武装勢力に太刀打ちできる見込みはないだろう。
しかし、サウジアラビア空軍は約200機のF‐15戦闘機を保有しており、これは米空軍を除けば、航空自衛隊に匹敵する実戦配備数である。サウジとしては空爆を続けることで、アデンに迫るフーシー派とこれに結託して復権を図るサーレハ前大統領グループを排除せざるを得ない。
だが、サウジ主導の空爆だけでフーシー派武装勢力を駆逐することは多分できないだろう。シリアとイラクにおける米空軍の対ISIS空爆が続いているが、依然としてISISの攻勢を排除できないことからも、これは明らかである。
心配な点は、アラブ合同軍による空爆継続が、イエメンの一般市民に対する付随的損害を引き起こし、深刻な人道的危機をもたらしていることである。クラスター爆弾が使用されているとすれば特に、無辜の一般市民の殺傷は避けられない。この事実が、フーシー派やイランのイスラーム革命防衛隊がスンナ派に対する宗派間抗争を扇動する上で、恰好の大義名分を与えかねない。
そうなれば、イエメンもイラク内戦と同様の激烈な宗派間抗争状態に陥るだろう。サウジの意図は明らかで、イランとの交渉路線を続けるアメリカのオバマ政権の外交姿勢に不満を抱き、自らイランに対するブラック・メール(脅迫状)を送りつけたのが、今回のイエメンに対する空爆作戦なのである。
イランは、自らが支援するフーシー派が優勢を保っている現時点では、サウジの脅迫を非難するだけに留めているが、今後の情勢の推移によってフーシー派が不利となれば、自らイエメンに軍事介入する恐れがある。
もしそうなれば、イランとサウジアラビアの両軍が直接衝突する、危険な地域紛争がペルシャ湾岸に起きるかもしれない。この両国の地域紛争が実際に起きれば、アジアと欧州に向けた原油と天然ガスの供給に、深刻なダメージを与えかねない。よって日本は、イエメン情勢の趨勢を特に注視しておくべきだろう。
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