中東の衛星テレビ局アル・ジャジーラの報道によると、イラク西部スンナ派居住地域アンバール県の中心都市ラマディが、5月17日にISIS武装勢力の攻撃によって制圧されたとのことである。
ラマディは、シリアからユーフラテス川に沿ってイラクに越境攻撃してきたISISにとって、シリアおよびヨルダン国境との交通線を抑えるためにも是非とも確保しておきたい要衝であり、近くには米空軍の基地もある。イラクの首都バグダードからは、西方にわずか110km程度の距離しか離れていない。
この戦略上極めて重要な都市が陥落してしまうとは、依然としてイラク政府軍と治安部隊の作戦遂行能力が大いに不足していることを物語っている。3月3日にイランのイスラーム革命防衛隊、特にその特殊部隊であるアル・クッズ(クッズとはエルサレムを意味する)の影響下にあるシーア派民兵の力を借りて、ようやくティクリートをISISから奪還したというのに、その成果を無にしかねないイラク政府側の失態と言えるだろう。
バグダードのアバディ首相は、劣勢に陥った政府軍を増援するために、シーア派民兵のアンバール県への投入を要請したようだが、これは極めてリスキーな選択である。
どうもマリキ前政権の時代から、バグダードの中央政府は、目先のISIS打倒にばかり意識を集中するあまりシーア派民兵の横行には目を瞑って、ISIS生き残りの最大要因であるスンナ派部族の動向を敢えて無視している様子だ。サダム・フセイン政権時代に長く差別されてきたシーア派のルサンチマンを、スンナ派に対する攻撃を黙認することによって今頃晴らしているように見える。
それというのも、アンバール県などに住むスンナ派部族の多くは、シーア派が主導する中央政府がイランの息のかかったシーア派民兵のスンナ派攻撃を黙認したため、主としてその脅威に対抗する目的で、旧バース党員等の反政府勢力とともにISISに加担している側面が強いからである。
したがって、シーア派民兵を毛嫌いしているスンナ派部族地域に敢えてシーア派民兵を展開させれば、その結果、さらにスンナ派部族をISIS支援の方向に追いやることになりかねない。正にISISの思う壺にはまることになるだろう。
アメリカ空軍の継続しているISIS武装勢力に対する空爆作戦も、シーア派民兵の対ISIS地上戦を間接的に支援する結果となり、これはイラクのスンナ派住民の反米感情を、イラク戦争後の米軍占領当時と同じ位高めてしまうことになるかも知れない。
やはり、スンナ派部族勢力をISISから切り離す措置が、まず第一に必要だろう。この点で、恰好の前例はある。2007年から8年にかけて、今回同様にスンナ派武装勢力(ISISの前身であるイラクのアル・カーイダ)の脅威が高まって、アンバール県が不安定化した時、米軍は増派に先立ってスンナ派部族の「覚醒評議会」を編成させ、スンナ派部族勢力を反アル・カーイダの戦闘に協力させることに成功しているのである。
イランの影響を受けたバグダード中央政府のシーア派民兵利用策で、スンナ派地域住民の敵意を却って高めるよりは、スンナ派部族勢力をISISから離反させる方策を講じることの方が、ラマディを奪還してアンバール県の治安を回復するための近道であろう。
思い切って、米軍がイラク西部のスンナ派住民の安全を保障してやり、北部クルド自治区と同様のスンナ派自治区を構築してやるという選択肢も考えられる。ただし、これにはイランもバグダードの中央政府も猛反対するのは確実である。オバマ米大統領にも、そこまでイラクに介入する気は毛頭ないだろう。
しかし、ISIS打倒を最優先するならば、イラクのスンナ派部族達に、治安と経済開発の両面で十分なインセンティブを与える必要があると自分には思われる。
0 件のコメント:
コメントを投稿