今日のzakzak(夕刊フジのサイト)での高橋洋一先生の連載、「「日本」の解き方」のタイトルは、「ブラック企業に是正を促す脱デフレ 雇用改善で人材確保が困難に」であった。
この先生はリフレ論の代表的論客だが、ご多分に漏れず、本日開陳されていた上記記事の内容も、実態を見ない机上の空論に過ぎないものであった。
高橋さんの論理は、概ね以下のとおりである。すなわち、アベノミクスによるマクロ金融政策(つまりは日銀の量的緩和)によってデフレから脱却できたため、最近雇用環境が激変して大学生の就職率も伸びており、ブラック企業は労働者から敬遠されるようになるため、雇用の確保が困難となり、おのずと淘汰されていくというものだ。加えて、厚生労働省によるブラック企業名の公表措置が、この淘汰を後押しする効果を持つのだそうだ。
何だか「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺を髣髴とさせるような、無理やりこじつけた感のある論理の展開である。
この論旨にまず論理のすり替えがあるのは、量的緩和でデフレを脱却して雇用環境が激変するのは、あくまでも大企業のことであって、そもそもハローワークを通じて求人・求職しているような中小企業や、ましてや零細なブラック企業の大多数の雇用環境とは、ほとんど無関係な論旨であるということだ。
高橋先生が効果があるとのたまう、厚労省のブラック企業名の公表措置も、その対象は大企業に過ぎない。
したがって、ワタミやファーストリテイリングクラスの会社なら、厚労省に企業名を公表されると自社の雇用確保に痛手かもしれないが、そんなことは最初から関係ない中小零細のブラック企業は、今まで通り、人材の使い捨てを続けるだろう。
高橋さんは御自分が東大を出て財務官僚になり、大学教授に華麗な転身を果たした人であるからか、分析の視点がエリートや大企業のデータに向きすぎている。彼は、リフレ派によくある、弱者の実態をよく知らないで机上の空論を述べているに過ぎないと筆者は思う。
そもそもブラック企業は、雇用の正規化や労働者の賃金を改善することで雇用を確保しようとするような真っ当な感覚の経営をせず、労働市場であぶれたような弱い人材を、脅しすかしの飴と鞭を用いて安く使い回すビジネスモデルを確立しているからこそ、ブラックなのである。新興宗教の、お布施増額目的の信者勧誘ビジネスと同じ収奪モデルなのだ。
したがって、ブラック企業が金融緩和による雇用環境改善で人集めに支障を来したからといって、高橋氏の主張される論理のように、雇用を確保するために賃上げなどに経営方針を転換するはずがない。そんな面倒で無駄なことをするくらいなら、多数の零細ブラック企業は、むしろ別の業態の新たな搾取システムを再構築することで、自社の存続を図ろうとするに違いない。
大体、エリートでもない普通の大学生が、簡単に大企業に入れるくらい雇用が逼迫すれば、恐らく高橋さんの言われる通りブラック企業は自然淘汰されていくだろうが、多分そんな時代は日本にもう来ないだろう。
よって、金融緩和がブラック企業を淘汰するという高橋氏の論理はまやかしであり、金融政策ではなく、あくまでも雇用・労働政策としてブラック企業の問題に対処していくべきだろう。
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