5月22日、先月末からニューヨークの国連本部で約4週間行われていた核不拡散条約(NPT)の再検討会議が、アメリカとアラブ諸国の「中東非核地帯構想」を議論する会議開催をめぐる対立を主な原因として、最終的な合意文書を採択できず、10年前の前々回再検討会議と同様に、決裂して閉幕した。
この「中東非核地帯構想」とは、1995年、NPTの無期限延長が決定されたことの代償として、エジプトなど中東アラブの非核保有国の要求で出された「中東決議」に基づくもので、要するに中東唯一の事実上の核保有国であるイスラエルを会議の席に引きずり出して、アラブ諸国が皆で非難するための構想である。
したがって、イスラエルの保護国であるアメリカは最初から同構想に乗り気ではないし、今回の再検討会議ではイスラエルの代表もオブザーバー参加して牽制していたから、最初からアメリカが、来年3月1日までに「中東非核地帯構想」会議の開催時期を特定することに反対の立場を取ることは明らかであった。土台、アメリカとアラブ諸国の間で、合意を形成することが無理な話であったのである。
そもそもNPTは、国連安保理常任理事国5カ国だけに核兵器の保有を認め、その他大多数の加盟国は原子力の平和利用(平たく言えば原発の建設)だけが認められている点で、典型的な不平等条約である。その代わりに、核兵器保有国は核軍縮に努力すべき義務が定められているのだが、それが遅々として進まないことにオーストリアなど多くの非核保有国が反発して、今回の再検討会議では「核兵器禁止条約」の締結までもが議論された。
もちろん、核兵器保有国は自分達の既得権益(核兵器の寡占状態という優越的地位)を害するような、そんな条約を認めるはずがないし、実を言うとアメリカの提供する拡大抑止(いわゆる「核の傘」)を自国の安全保障の根幹に置いている日本などの地域対米同盟国も、「核兵器禁止条約」には反対せざるを得ないのである。
NPT再検討会議では、核軍縮のほかに、核不拡散と原子力の平和利用も議題とされるのだが、核軍縮については前述のように核兵器保有国と他の大多数の加盟国が対立しており、核不拡散については、イスラエルのほかにインドとパキスタンの明確な核兵器保有国がNPT未加盟である上に、北朝鮮まで核武装してNPT脱退を宣言したことから、そもそもお話にならないのが現状である。
また、原子力の平和利用については、イランの核開発プログラムがIAEAの保障措置(査察を受ける義務)協定に違反して進められたにもかかわらず、P5プラスドイツが、事実上イランの核開発を容認する方向で今年6月を期限とする最終合意に向けた交渉を継続していることにサウジアラビアなどのアラブ諸国が反発しており、イランの核開発継続が認められれば、サウジアラビアなどもイランと同等の権利を主張する強硬姿勢を示している。
それどころか、サウジアラビアはNPT非加盟国であるパキスタンの核武装をかつて秘密裏に資金援助したと言われているため、イランが今後も核開発を継続して核武装の方向に向かった場合には、パキスタンの核弾頭を自国に配備する選択肢も検討していると言われている。それほど、中東地域では核拡散の危機的状態に置かれているのである。
エジプトはサウジアラビアと並ぶアラブの大国だが、イランの核開発よりも、過去に4回も戦争をしたイスラエルの核兵器をむしろ警戒している。そのために、エジプトは「中東非核地帯構想」の実現を繰り返しNPT再検討会議の場で主張しているわけであるが、今回の再検討会議でも、アメリカに事実上拒否されてしまった。そのため、イスラエルへの対抗上、エジプトは今後も化学兵器禁止条約(CWC)に加盟する見込みがないだろう。
このように、NPT再検討会議でのアメリカとアラブ諸国の決裂は、中東における核拡散の現状ではむしろ想定の範囲内の出来事であり、今後核兵器に関しては、イスラエルとイランの地域二極体制が構築されていく方向に緩やかに進んでいくものと筆者は予想しているのである。
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