非協力ゲーム理論の解である「ナッシュ均衡」を提唱した数学者のジョン・ナッシュ博士(86歳)が、妻のアリシアさん(82歳)とともに、5月23日に、アメリカのニュージャージーでタクシーに乗車中、交通事故に遭遇して亡くなったそうだ。
ナッシュ博士と言えば、1994年にノーベル経済学賞を受賞している天才で、統合失調症で苦しんだその生涯は、ラッセル・クロウが主演してアカデミー賞の作品賞、監督賞などを受賞したハリウッド映画「ビューティフル・マインド」で描かれたため、とても有名である。
ナッシュ博士と言えば、何よりも非協力ゲーム理論の「ナッシュ均衡」だが、その発想は拍子抜けするくらい、実は単純なものである。つまり、ゲームに参加している各プレイヤーの戦略(行動の選択肢)が他の全プレイヤーの戦略に対して最適反応になっている時、各プレイヤーは戦略を変更すると獲得利得が下がってしまうため、戦略を自ら変更する誘因を持たない。その戦略の組がナッシュ均衡点である。
「ビューティフル・マインド」では、学生時代のナッシュがナッシュ均衡理論を発見したのが、バーに入ってきた3人の美女の誰にアプローチするかと考えた時、もし全員がナンバー1の美女に向かわなければ、皆が相手を得られることからインスピレーションが浮かんだことになっていた。これは、単に映画で話を面白くするための作り話だそうだが。
(岡田章先生の「ジョン・ナッシュの業績」<http://www.econ.hit-u.ac.jp/~aokada/essay_pdf/John_final.pdf>という文章を参照)。
(岡田章先生の「ジョン・ナッシュの業績」<http://www.econ.hit-u.ac.jp/~aokada/essay_pdf/John_final.pdf>という文章を参照)。
このように、ナッシュ均衡とはきわめて単純な発想に基づいている。岡田先生の上記文章にも、男女学生2人づつの恋愛ゲームを事例にナッシュ均衡が解説されているが、筆者も岡田先生の取り上げられた事例を少し変形して、婚活ゲーム状況を説明して遊んでみたいと思う。
問題
今婚活に臨んでいる、AさんとBさんの結婚適齢期の男性2人がいます。なお、女性から客観的に見た魅力は、Aさんの方がBさんよりも高いとします。
さて、AさんとBさんは、2人ともC子さんとD子さんのどちらかにアプローチしようと考えています。なお、C子さんとD子さんはどちらも魅力的ですが、ややC子さんの方がD子さんの魅力を上回っているものとします。つまり、AさんとBさんは、できればC子さんと結婚した方が、得られる利得(この場合は満足度、または効用)が高いわけです。
さて、こうした状況の下で、はたしてAさんとBさんは、どちらの女性にアタックするのが最適な戦略でしょうか。
利得マトリクス(左数字がAの利得、右数字がBの利得)
Bの戦略
C子にアタック
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D子にアタック
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C子にアタック
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3, 0
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3, 2
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D子にアタック
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2, 3
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2, 0
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Aの戦略
さて、利得マトリクスを見ると、AさんはBさんよりも女性から見た魅力で優越しているので、Bさんの戦略に関わらず、C子さんにアタックするのが最適(これが支配戦略)である。
他方で、Bさんは敢えてC子さんにアタックしても、Aさんが何故かD子さんにアタックする戦略を取った場合はC子さんと結婚できて高い利得3を得られるが、Aさんも同じくC子さんにアタックする戦略を選んだ場合、あえなく振られて利得0で撃沈してしまう。
そこで、BさんはAさんがC子さんにアタックすると事前に読んで自分は敢えて冒険をせず、D子さんにアタックするのが最適な戦略となる。したがって、A→C子、B→D子の戦略の組が(純粋戦略での)ナッシュ均衡で、AはC子と結婚できてその獲得利得は3、BもD子と結婚できてその獲得利得は2となり、一旦この状態となれば、そこから戦略を変更する誘因をA、Bともに持っていない。これがナッシュ「均衡」点ということである。
何だか、映画「ビューティフル・マインド」での3人の美女へのアプローチのケースにおけるナッシュのひらめきと同じく、もしも人間が合理的であると仮定すれば、この均衡点は、極めて説得力を持っているのではないだろうか。
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