まず、想定される状況を、以下の通り定義する。
(1) イランは、イスラエルが現在独占している中東での核保有国への参入(核開発継続)を検討している。
(2) イランが参入を選択すると、イスラエルはイランとの共存か、あるいはイランに対する攻撃を選択する。
(3) イランには、イスラエルへの反撃を行う強硬なタイプと、反撃を差し控える柔軟なタイプのいずれかのケースが有り得る。
(4) イランは自分のタイプがわかるが、イスラエルはイランを確率1/2で強硬なタイプ、確立1/2で柔軟なタイプであると見積もっている。
(5) イランは、イスラエルが単独で自国の核施設を攻撃した場合でも核開発を継続することができ、イスラエルが自国との共存を選択した場合には、核武装してイスラエルを地域から駆逐することができる可能性があるものとする。
以上の状況は、イラン、イスラエル両国の共有知識となっている。
このゲームにおけるイランの選好順序は、強硬型で核開発継続・共存DC>柔軟型で核開発継続・共存DC>柔軟型で核開発中止C>強硬型で核開発継続・攻撃DD>柔軟型で核開発継続・攻撃DD>強硬型で核開発中止C、であると考えられる。
他方、イスラエルの選好順序は、柔軟型イランの核開発中止C>強硬型イランの核開発中止C>柔軟型イランの核開発継続・攻撃DD>強硬型イランの核開発継続・攻撃DD>柔軟型イランの核開発継続・共存DC>強硬型イランの核開発継続・共存DC、であろう。
他方、イスラエルの選好順序は、柔軟型イランの核開発中止C>強硬型イランの核開発中止C>柔軟型イランの核開発継続・攻撃DD>強硬型イランの核開発継続・攻撃DD>柔軟型イランの核開発継続・共存DC>強硬型イランの核開発継続・共存DC、であろう。
両国が獲得する利得ベクトルは、上記のそれぞれの選好順序に3から-2までの整数値を割り振った()内の数値の組み合わせによって示されている。()内の数値の前者はイランの利得を、後者はイスラエルの利得をそれぞれ意味している。なお、各数値は両国の序数的効用を示したものであるから、数値そのものの符号や絶対値に特段の意味はないが、イメージしやすいように不利な場合にはマイナス符号を付け、有利不利のどちらでもない場合には0を割り振ってある。
(自然手番から)確率1/2 情報集合α イラン手番強硬型イラン
↓
情報集合γ
イスラエル手番 対強硬型イラン
(信念・確率p)
|
↓
・核開発中止C(-2,2)
→・核開発継続・攻撃DD(0,0)
→・核開発継続・共存DC(3,-2)
(自然手番から)確率1/2 情報集合β イラン手番柔軟型イラン
↓
情報集合γ
イスラエル手番 対柔軟型イラン
(信念・確率1-p)
|
↓
・核開発中止C(1,3)
→・核開発継続・攻撃DD(-1,1)
→・核開発継続・共存DC(2,-1)
さて、この展開形ゲームでは、イランの手番後の情報集合γにおいて、イスラエルは2つの手番のどちら側にいるかを判断できないため、どちら側の手番に自分がいるかに関するイスラエルの「信念」、すなわち条件付き確率としての予測が問題となる[1]。
いま、上の手番にいる確率をp、下の手番にいる確率を1-p (0≦p≦1)であるとイスラエルが見積もっていると考える。一方、イランはαとβの2つの情報集合を持っているが、そのどちらにも1つの手番しか含まれていないため、信念はどちらの情報集合でも1となる。
このゲームでの均衡点は、各プレイヤーが、その後の他のプレイヤーの行動を所与とした上でそれぞれの情報集合ごとに自らの信念を前提に期待利得を最大化する行動を選択すること、そして、信念自体が各プレイヤーの選択するその情報集合に到達するまでの行動と整合性がとれていること、以上の2点から求めることができる(完全ベイジアン均衡)[2]。
そこで、まず情報集合γにおけるイスラエルの信念に基づいてその期待利得を計算すると、C(すなわち共存)を選択した場合には、-2p-1(1-p)=-p-1、D(すなわち攻撃)を選択した場合には、0+1(1-p)=-p+1、であるから、イスラエルは自らの信念に関わらず、D(攻撃)を選択することが最適となる。
次に、情報集合αにおけるイランの行動を考えると、イスラエルが情報集合γでDを選択してくることを前提とすれば、αでイランは、DDの場合の自分の利得0とC(核開発中止)の場合の自分の利得-2を比較して、D(すなわち核開発継続)を選択することが最適である。
また、情報集合βでイランは、イスラエルがγにおいてDを選択してくることを前提とすれば、DDの場合の自分の利得-1と、Cの場合の自分の利得1を比較して、Cを選択し核開発を中止するはずである。
最後に、ゲームの開始時点を自然手番として考えると、情報集合γの上の手番に到達する確率は、イラン、イスラエル両国いずれも最適な選択がDDでつながるので1/2、下の手番に到達する確率は、イランの選択がC、イスラエルの選択がDDでつながらないので、βに到達する確率は0である。よって、手番に到達することを前提とした条件付き確率であるp=1となる。
以上の考察の結果、この問題の均衡点は、戦略の組(イラン、イスラエル)では(DC, D)、情報集合γでのイスラエルの信念(p, 1-p)では(1, 0)の組である。したがって、結論はDD、すなわち、イランの核開発継続とそれに対するイスラエルの攻撃しかないことになり、「イランの核武装化を止められるか」どうかについては「核武装化を止められない」、そして、「イランの反撃はあるか」どうかについては、イランが強硬タイプでイスラエルへの反撃を躊躇しないであろうから、「反撃はある」が解となる。
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