2015年5月26日火曜日

イランによるホルムズ海峡封鎖のケース・スタディ

 イランがホルムズ海峡を本当に封鎖することが想定されるケースとは、イランに対する武力攻撃が起きた場合に、イランが自衛権の行使を理由に封鎖する場合である。

 しかし、ホルムズ海峡の分離航路帯がオマーンの主張する領海内にあるので、イランの自衛権がそこまで及ぶことをオマーンも欧米諸国も、もちろんわが国も容認しないはずである。

 このケースが実際に起きた場合には、仮に国連安保理の武力行使容認決議が無かったとしても、欧米諸国はオマーンの自衛権行使としての掃海作業に協力する有志連合を組む可能性がある。その場合、海上自衛隊の掃海部隊派遣が、アメリカやオマーンから要請されることを想定できるかもしれない。

 その際に有志連合軍は、オマーンの要請に対して集団的自衛権を行使する余地もある。だが、このケースでは、ペルシャ湾に展開するアメリカ第5艦隊とイラン海軍との戦闘が継続されている最中の掃海作業となる可能性も、恐らく否定できない。

 次に、20131月に起きた、アルジェリア東部イナメナスでのガス・プラント人質事件で日揮の駐在員10人が犠牲となった事案[1]からすでに議論されてはいるが、自衛隊による邦人救出の有り方がホルムズ海峡封鎖のケースでも問題となる可能性がある。

 現在、イラクを除くペルシャ湾岸諸国に在留している日本人は、平成24年度の概数で、UAEに約3000人、カタールに約1200人、サウジアラビアに約830人、イランに約740人、バハレーンに約240人、クウェートに約190人いる[2]

 これらの邦人のうち、具体的に危機が発生する前に脱出する人、現地に居残る人、陸路または空路で脱出する人、取り残される人の数等を想定しておく必要がある。
 
 参考となる具体的なケースとしては、イラン・イラク戦争中の1985317日、イラクのサダム・フセイン大統領が48時間の猶予期限以後、イラン上空を飛ぶ航空機に対する無差別攻撃を行うと宣言した事例がある[3]

 当時のイラン在留外国人は、各自自国の航空会社や軍の輸送機によってイランから脱出したにもかかわらず、わが国だけは、日本航空の労働組合が組合員の安全保障が確保されないことからチャーター便の派遣要請を拒否し、また自衛隊法上、自衛隊の海外派遣が困難であったことから、イラン在留邦人215人の救出方法に窮して邦人の安全が確保できない状況が生じた。

 幸いこの時は、トルコ政府の協力で、トルコ航空に自国民救援のための最終便を2機に増発してもらうことができ、日本人がトルコ航空機に分乗して期限ぎりぎりで危機を脱することができた[4]

 しかし、アルジェリア人質事件後の国民感情を鑑みると、今後ペルシャ湾岸での邦人救出に自衛隊の派遣が検討される可能性があるかもしれない。そのためには、新たな法整備と自衛隊の装備および訓練を強化することが必要となるだろう。


[1] "Algeria siege dead and survivors flown back to Japan," BBC News Asia, 25 January 2013, accessed on March 7, 2013, <http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-21192100>.
[2] 外務省領事局政策課『海外在留邦人数調査統計 (平成24年速報版)』、201337アクセス<http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/12/pdfs/WebBrowse.pdf>, 54-57頁。
[3] 木暮正夫「日本とトルコの民間友好史: テヘランに孤立した日本人を救出したトルコ航空」、201337日アクセス、 <http://www.turkey.jp/2003/info03_5.htmlhttp://www.turkey.jp/2003/info03_5.html>.
[4] 同上。

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