2015年4月28日火曜日

バブル崩壊後のデフレと不況の原因に関する考察

 アベノミクスの第一の矢である「異次元の量的金融緩和」がよって立つ経済理論は、いわゆるリフレ(reflation)論である。

 リフレとは、簡単に言えばデフレでもインフレでもない状態を、マネーサプライ(MS、通貨供給量)の増加と人々のインフレ期待に依存して達成しようとする理論を指す。日本経済が陥ったデフレを脱却するための、政策提言の1つである。日銀が2%のインフレ目標を掲げる根拠を成す。

 難しい経済学用語で言えば、貨幣数量説と合理的期待形成仮説の2つの理論的根拠に基づいている。本投稿では、その根拠の薄弱さを分析したい。


 貨幣数量M×貨幣の流通速度V=価格P×取引量T

 これが、根拠となるフィッシャーの交換方程式と言われるもので、 完全雇用下でVとTが短期的に所与とすると、PはMに比例する。したがって、Mの量を増やせば、つまり貨幣流通量MSを金融緩和で増やせば、物価Pも上昇するというもの。貨幣の交換手段としての機能のみに着目した方程式であると言えるだろう。

 しかし、長く続くゼロ金利下では、日銀が短期金融市場を通じて供給通貨(マネタリーベース)を増やしても、金利が付かないなら投資に回さず通貨を蓄えておいても同じだから、いわゆる「流動性の罠」に陥って通貨供給量は増えない。
 
 そこで日銀が2%のインフレ目標を定めて、その目標に到達するまでひたすら量的金融緩和を続けるのが「異次元緩和」なわけで、デフレ下で上昇する実質金利を強引に押し下げれば、通貨を蓄えていては損なので、企業の設備投資や個人消費が刺激されてデフレ不況から脱却できるという論理である。

 しかし、すぐわかることだが、通貨には交換手段としての機能以外にも、価値尺度の機能や価値保存の機能もある。したがって、いくら日銀が量的緩和を進めても、将来への不安が払拭されない限り、企業も個人も将来に備えて通貨を一定程度退蔵するだろう。マネタリーベースとマネーサプライ、さらには消費者物価指数の間の相互変動に明確な関係は見られないことが実証されている。

 人々が合理的期待形成に基づいて行動するというのも、極めて非現実的だ。人は元来非合理的な動物で、様々なバイアスに依拠して行動を選択する。「将来インフレになるから、金を全部使ってしまえ」とは決して判断しないだろう。

 思うに、日本がデフレに陥ったために設備投資や個人消費が抑制されたのはなく、90年代以降、設備投資や個人消費が停滞した結果デフレに陥ったのであり、リフレ派の主張は論理が逆転していると思われる。

 日本のデフレと不況の原因は、90年代の円高と情報通信などのグローバリゼーションに乗り遅れたために輸出が減り、生産能力が過剰になって設備投資も減少し、企業が海外へ投資と生産拠点を移転して低コスト商品を日本に逆輸入するようになったためだろう。

 これでは、日本国内の設備投資も需要も海外に奪われてしまう。個々に見ると合理的な行動が、社会全体で見ると不利益をもたらすことを「合成の誤謬」というが、日本産業の空洞化現象は、まさに企業活動における「合成の誤謬」の1つの事例である。

 国内企業の設備投資が滞れば、生産性は落ち国際競争力は下がる。企業はそれでも利潤を確保して、経営者は株主に対する説明責任を果たさなければ、株主総会は大荒れだ。

 そこで、てっとり早く利潤を上げる手段が、賃金のカットとリストラというわけである。非正規社員を増やして正社員の採用を控えればなおさら良いが、その結果、労働者の個人消費が減って不況はさらに続くというのが、恐らく日本のデフレと景気が回復しない根本の原因なのだろう。

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