イスラエルが従来の外交努力の方針を転換するとした場合、その方向性はP5+1を対イラン制裁強化に回帰させることに向かうであろう。具体的には以下の3つの選択肢が考えられる。
(1) 柔軟姿勢論への転換。すなわち、P5+1各国との緊密な協力体制を構築しつつ、交渉当事国内部に対する影響力を行使する外交方針に転換すること。ただし、イラン核問題とパレスチナ問題のリンケージという、国内で激しい対立を引き起こしかねない譲歩を強いられる覚悟をする必要がある。
(2) 対米姿勢硬化論への転換。親イスラエル・ロビー活動を強化することを通じて、アメリカ議会がホワイトハウスの意向を無視して対イラン制裁を強化する法案を可決できるような雰囲気を醸成すること。
ただし、オバマ政権とは決定的に対立する大きなリスクを背負うことになりかねない。場合によっては、イランが暫定合意を破棄した最悪の事態の際にアメリカ政府の支持あるいは黙認を得られず、イスラエルの軍事オプション選択が阻害される危険性すらある。
ただし、オバマ政権とは決定的に対立する大きなリスクを背負うことになりかねない。場合によっては、イランが暫定合意を破棄した最悪の事態の際にアメリカ政府の支持あるいは黙認を得られず、イスラエルの軍事オプション選択が阻害される危険性すらある。
(3) 折衷論への転換。オバマ政権との対立は抑制しつつ、アメリカ議会に対する新たな対イラン制裁法案の作成に向けたロビー活動を強化するという折衷した外交方針をイスラエルが選択すること。
しかし、対イラン融和路線をとるオバマ政権とアメリカ議会の対イラン強硬派議員達との間で、イスラエルが上手く梶取りできる保証はほとんどないことが問題となる。
しかし、対イラン融和路線をとるオバマ政権とアメリカ議会の対イラン強硬派議員達との間で、イスラエルが上手く梶取りできる保証はほとんどないことが問題となる。
イスラエルが中東地域で戦略的に置かれている立場は、先に検証したとおり、パワーの物質的基盤の点でイランと比較して非常に小さいにもかかわらず、軍事的パワーの点では核能力を含めて圧倒しているという不均衡な状態にある。
したがって、イスラエルの戦略的立場では、イランの核武装は直ちに自国の実存的脅威と見なされている。そのため、イランの進める核計画を何としても廃棄させて、安全保障上将来の不安の芽を事前に除去しようとする強い動機がある。
したがって、イスラエルの戦略的立場では、イランの核武装は直ちに自国の実存的脅威と見なされている。そのため、イランの進める核計画を何としても廃棄させて、安全保障上将来の不安の芽を事前に除去しようとする強い動機がある。
これに対して、P5+1の基本的立場は、IAEAの査察等を通じてイランの核能力をNPT体制で認められている平和利用の範囲内に限定しようと目指しているに過ぎない。
この点で、イランの核開発に対してイスラエルの抱いている脅威認識の大きさとは、きわめて大きな隔たりが存在している。以上の論理式は、
この点で、イランの核開発に対してイスラエルの抱いている脅威認識の大きさとは、きわめて大きな隔たりが存在している。以上の論理式は、
仮説A : P1(濃縮継続)∧R1(制裁強化)⇒QB(外交努力)∨Qc(軍事オプション、ifアメリカの支持)
仮説B : P2(濃縮停止)∧R2(制裁解除)⇒QB(外交努力)
仮説C : P1(濃縮継続)∧R2(制裁解除)⇒QD(核曖昧政策を変更)
である。
仮説Aは、イランがブレイク・アウトしたケースを想定している。この場合には、P5+1は、事後の交渉を停止するとともに、イランに対する制裁を再び強化する方向に向かうだろう。
イスラエルとしては、P5+1の対イラン制裁をなるべく強力なものにするための外交努力を継続するとともに、単独での軍事オプションを実施可能な(国際法的にではなく)事実上の正統性を得ることができる蓋然性が高まる。
ただし、その場合にも、イスラエルは事前にアメリカ政府の支持を獲得するか、あるいは少なくとも事後のアメリカ政府の黙認が得られる環境を醸成しておくことが付帯条件として最低限必要となるだろう。
イスラエルとしては、P5+1の対イラン制裁をなるべく強力なものにするための外交努力を継続するとともに、単独での軍事オプションを実施可能な(国際法的にではなく)事実上の正統性を得ることができる蓋然性が高まる。
ただし、その場合にも、イスラエルは事前にアメリカ政府の支持を獲得するか、あるいは少なくとも事後のアメリカ政府の黙認が得られる環境を醸成しておくことが付帯条件として最低限必要となるだろう。
仮説Bは、イランが核開発(すなわち、ウラン濃縮活動の継続)を完全に断念するケースである。この場合、P5+1はイランに対する制裁を解除し、事後はIAEAの査察が十分に行われるかどうかに問題の焦点が絞られることになる。
イスラエルの政策オプションとしては、査察を徹底するように外交努力を続ける選択肢となる。これが最も望ましい結論ではあるが、先に述べたとおり、イランが核開発を完全に放棄する蓋然性は低い。
イスラエルの政策オプションとしては、査察を徹底するように外交努力を続ける選択肢となる。これが最も望ましい結論ではあるが、先に述べたとおり、イランが核開発を完全に放棄する蓋然性は低い。
最後の仮説Cは、非常にレアなケースであると思われるが、イランがブレイク・アウトしたにもかかわらず、P5+1の足並みが揃わずに対イラン制裁がなし崩し的に解除されてしまうケースか、あるいは、イランが巧妙に制裁を棚上げしつつ密かに核開発を続けるケースである。
この場合が、イスラエルの最も懸念している想定であると言え、イランが核武装に向かう方向性が定まりかねない。アメリカの支持が得られるならば、仮説Aのケースと同様に、イスラエルが単独での軍事オプションを選択する危険な賭けに出る可能性もあるが、現実的には、従来固持してきた核の曖昧政策を変更して、イランとの間での核抑止体制を構築することを検討するかもしれない。
仮説Cのケースでは、イスラエルは3つのリスクを克服する必要がある。
この場合が、イスラエルの最も懸念している想定であると言え、イランが核武装に向かう方向性が定まりかねない。アメリカの支持が得られるならば、仮説Aのケースと同様に、イスラエルが単独での軍事オプションを選択する危険な賭けに出る可能性もあるが、現実的には、従来固持してきた核の曖昧政策を変更して、イランとの間での核抑止体制を構築することを検討するかもしれない。
仮説Cのケースでは、イスラエルは3つのリスクを克服する必要がある。
まず、エジプトを代表とするアラブ諸国が、イスラエルをNPTに加盟させるように国際的な圧力を強めるだろう。
次に、イスラエルの領土は狭小であるため、イランとの相互確証破壊を想定した場合に第二撃能力を確保することのコストに見合う程度の戦略的有効性が得られるかどうか、不透明である。そのため、核抑止力の整備に要する分だけイスラエルの国防費負担が増大する恐れがある。
次に、イスラエルの領土は狭小であるため、イランとの相互確証破壊を想定した場合に第二撃能力を確保することのコストに見合う程度の戦略的有効性が得られるかどうか、不透明である。そのため、核抑止力の整備に要する分だけイスラエルの国防費負担が増大する恐れがある。
最後に、中東が多極的な地域であることが、イスラエルにとって政策変更の大きなリスクであることがあげられる。
すなわち、イスラエルとイラン両国の核武装が明白になった場合には、エジプト、トルコ、そしてサウジアラビアの少なくとも3カ国は自国の核兵器開発を進めるか、核兵器の購入を検討し始める恐れがある。
したがって、イスラエルの核曖昧政策の変更と対イラン核抑止体制への移行を契機として、中東全体に核の拡散が起きる可能性がある。
すなわち、イスラエルとイラン両国の核武装が明白になった場合には、エジプト、トルコ、そしてサウジアラビアの少なくとも3カ国は自国の核兵器開発を進めるか、核兵器の購入を検討し始める恐れがある。
したがって、イスラエルの核曖昧政策の変更と対イラン核抑止体制への移行を契機として、中東全体に核の拡散が起きる可能性がある。
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