2015年4月30日木曜日

イエメン情勢-サウジの新体制と対イラン代理戦争

 アブドゥッラー前国王が死去したことを受けて、今年1月24日に即位したサルマーン新サウジ国王が、4月29日、甥で内務大臣のムハンマド・ビン・ナーイフ王子を新たな皇太子に、また、息子で国防大臣のムハンマド・ビン・サルマーン王子を新副皇太子に任命した。サウジ建国の父イブン・サウド王の孫の世代が初めて皇太子に就いた、非常に画期的な出来事である。

 この人事の背景には、悪化する一方の隣国イエメン情勢に、サウジがより積極的に対処するための新体制を強化する意図がある。内務大臣と国防大臣は、イランの支援を受けて首都サナアを占拠する反体制武装勢力ホーシー派に対してサウジ主導の有志連合が継続している空爆と、アラビア半島のアルカーイダ(AQAP)に対する対テロ作戦の要となる存在だからだ。

 ホーシー派とは、シーア派分派であるザイド派の復興運動を支持する武装グループで、アラブの春によって失脚したサーレハ前大統領と結託して政権移行プロセスを武力で妨害し、昨年8月に首都サナアを制圧した、イエメンで最も有力な反体制組織である。

 サウジとペルシャ湾岸の覇権をめぐって対立するシーア派大国イランは、ホーシー派を支援して、今年2月、イエメンのハーディー暫定大統領を南部のアデンに追い払った。3月には、ホーシー派がアデン近郊にまで迫ったため、大統領はサウジアラビアに逃れた。

 したがって、3月26日から開始されたサウジ空軍などのホーシー派に対する空爆は、イランのイエメンへの影響力拡大を阻止するのが、本当の目的なのである。

 現在、イランの影響力は、内戦の続くシリアとイラク、ヒズブッラーへの支援を通じてシリアの隣国レバノン、そしてホーシー派支援を通じてイエメンへと、過去10年間で飛躍的に伸びた。サウジアラビアは、イランの傀儡勢力に包囲されつつあるという強い危機感を抱いている。イエメンでの軍事作戦は、サウジのイランに対する脅威認識を反映したものなのである。

 特にイエメンがイラクのような破綻国家となると、シーア派民兵がイエメンを安全地帯化してサウジに越境攻撃をかけて、サウジの王政を揺るがす恐れがある。また、ホーシー派と対立するスンナ派テロ組織であるAQAPの対サウジ攻撃が激化する危険性もある。何しろ、新皇太子は2009年、AQAPの爆破テロ未遂事件で危うく殺されかけた経験を持っているのである。

 イエメンの対AQAP攻撃という一点では、サウジとイランが共通の利害関係にあるという、錯綜した状況なのである。いずれにせよ、今回のサウジ新体制の発足によって、イエメンでのサウジとホーシー派を介したイランとの代理戦争が、なお一層激化することは明らかだ。

 アデン湾と紅海の入り口を繋ぐバーブ・ル・マンデブ海峡は、エジプトの大事な外貨収入源であるスエズ運河とインド洋を結ぶ、世界的な重要航路である。イエメンの不安定化を懸念するエジプトは、サウジの空爆を支援するだけでなく、イエメンへの軍の派遣を検討するかもしれない。

 また、イエメンの対岸ジブチには、海賊対策のために海上自衛隊を含む各国の艦隊が展開している。したがって、イエメンの不安定化は、我が国にとっても決して対岸の火事ではないと言えるだろう。

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