2015年4月27日月曜日

シリア内戦の影響ー錯綜する各勢力の関係

シリア内戦は、ヒズブッラーとISISという、シーア派とスンナ派のコインの裏表とも言えるつのイスラーム過激派組織の介入を通じて、レバノンとイラクそしてヨルダンといった隣接国の他にも、エジプトやリビア等遠隔地のアラブ国家に飛び火して各国の安全保障環境の悪化に多大な影響を及ぼしている。

同時にISISとそのシンパの発生が、現地での非人道的行為や欧米諸国や日本を含む世界各地におけるホームグロウン・テロの脅威を拡散させている。その意味において、中東アラブ諸国と欧米諸国にとってのシリア内戦は、軍事介入してでも解決しなければならない安全保障上の重要課題となりつつある。

その一方、現在の中東で勢力均衡の最も重要な鍵を握るイラン、トルコ、そしてイスラエルの三カ国はそれぞれの思惑からシリア内戦の解決に関して消極的な姿勢を崩していない。今後欧米諸国と日本が協力して地域の安定をもたらすためには、これら重要な三カ国がアラブ国家でない点に大いに留意しておくべきだろう。

結論的にシリア内戦は世俗的な民主主義の台頭にはつながらず、アサド政権はその支配領域を地理的に縮小させることで権力基盤の温存に成功している。

軍事的には、ヒズブッラーの介入を背後で操っているイランの政治的影響力が、内戦継続の結果、シリアでもイラク同様に向上したと言える。シリアで抑圧されてきた農村部のスンナ派とクルド人の反対派武装勢力がアサド政権を攻撃するとともに、ISISの様な過激なサラフィー・ジハード主義勢力がシーア派やクルド人、対立する武装勢力を宗派間抗争の枠組みを用いて駆逐することに成功した結果、シリアは事実上分裂してISISが実体を伴わないカリフ国の復活をアピールすることに成功した。

世界中の現状不満分子がISISSNSを駆使した巧妙な宣伝に共鳴して、各地で過激なテロを実行する危険な兆候が生じている。こうしたシリア内戦の二面性が、欧米の積極的介入を躊躇させている。

すなわち欧米諸国にとって、ISIS攻撃はアサド政権の権力温存を側面支援することになり、同盟国であるサウジアラビアやトルコと地域覇権をめぐって対立するイランを利する結果を招くこととなる。

サウジアラビアとトルコの両国は、本来ISISの台頭を必ずしも脅威とは考えておらず、逆にアサド政権を打倒してイランとシーア派の影響力をそぎ落とすため、これまでISISを含むスンナ派過激派に資金等の様々な援助を続けてきたのである。トルコにとってはまた、最大の国内不安定要因であるクルド人の民族自決と独立国家建設を阻止するためにも、クルド人を盛んに攻撃するISISには相当な利用価値がある。

他方で、エジプトとヨルダンというつの世俗的な親米アラブ国家の現政権は、その権力基盤の不安定さをISISに突かれて正に攻撃の標的とされている危機的状況にあるため、ISIS攻撃の連携強化を国際社会に積極的に求めている。

  この両アラブ国とイスラエルは外交関係を持っているが、イスラエルはいまだISISに直接標的とされていないこと、また、イスラエルにとってはパレスチナ情勢の安定化とイランの核開発を阻止することが先決問題であって、1973年(第4次中東戦争)以来事実上安全保障上のパートナーであったアサド政権の打倒は二の次の問題に過ぎないことから、今後もシリア内戦の解決には積極的に関与しないだろう。

このように、アメリカが主導しなければならない地域の主要同盟国には、現状で目指す方向性の全く異なる少なくともつの勢力が錯綜している。すなわち、ISIS掃討よりもアサド政権打倒を優先しイランの台頭を好まないサウジアラビアとトルコの両国、イランの台頭よりもISIS掃討に積極的なエジプトとヨルダンの両国、そのいずれにも加担する意図がなく、イラン製地対空ミサイルのヒズブッラーへの流出さえ阻止できれば現時点でシリア内戦の動向にさほどの関心を示さないイスラエルのつの勢力がある。

さらには有志連合の後押しを受けてISIS掃討の地上戦力を提供することで自らの領土保全と権力基盤を確立しようとするイラクのシーア派主導政権とクルド人、そして、ISISを駆逐後再び勢力を回復して究極的にはアサド政権を打倒しようとする自由シリア軍(FSA)などのシリア反体制派武装組織という、これまた目指す方向性の全く異なるつの勢力が錯綜している。

こうした思惑の異なる各勢力間における均衡を確立しなければ、アメリカの率いる有志連合がISISを打倒することはできないだろう。

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