今朝のNHKニュースで、イランの核開発に関連する一連の制裁が緩和されることを見越して、イランの観光産業や株式市場が活気を取り戻しつつある様子が放送されていた。それ自体は日本にとって大変望ましいことである。日本とイランの両国は、元来非常に友好的な関係を築いてきたからである。それがイランの核開発問題発覚をきっかけとして、図らずも我が国が国際的な対イラン制裁措置を継続する事態に立ち至って今日を迎えている。
イランの核開発問題は、2002年8月に秘密の核開発関連施設の存在が暴露されてから、10年以上の日時が経過している。この間、結果的にイランの時間稼ぎに国際社会が翻弄されてきたのが、これまでの外交交渉の実態だ。この問題が、イスラエルによるイランに対する軍事攻撃が取りざたされるまでに発展したのは、2010年2月に、イランが約20%濃縮ウラン開発技術の獲得に成功して以降である。今年6月末を期限とする包括合意に向けた交渉の重要な論点は、イランの核武装化が阻止できる程度にそのウラン濃縮設備を制限できるかどうかにかかっている。イランは包括合意と同時に制裁が解除されるべきであると主張しているが、米英仏などはイランの合意履行を確認した上での段階的な制裁緩和を主張しており、期日までに合意が形成できるかどうかは未確定である。
アメリカのオバマ大統領は、中東からの撤退を推進するためにイランの平和的な核開発を事実上認める方針であろう。これには、アメリカの中東における最重要の同盟国であるイスラエルとサウジアラビアが猛反発しており、アメリカの対イラン接近は、地域情勢をさらに不安定化させる懸念がある。イスラエルにとってイランの核開発は、地域における核の独占体制を脅かす「実存的な脅威」と見なされているし、サウジアラビアにとってシーア派大国であるイランの影響力拡大は、聖地メッカとメディナを抱えるスンナ派の盟主として許しがたい事態であろう。少なくとも、サウジアラビアはイランの核開発に触発されて自国の核武装化を進める危険があるし、イランとサウジアラビアが核を入手すれば残る地域大国のトルコも同様の核開発政策に舵を切る蓋然性がある。正に、中東に核のドミノ現象が起きるという恐ろしい事態が起きかねない。多極化した核抑止体制を管理することは、米ソ冷戦期のような二極体制における核管理に比べて遥かに難しいことは自明であるからだ。
その意味で、イランの核開発問題は現在進行中の危機であり、その解決に至る道筋はある種のシナリオを作る知的作業と同様である。シナリオの作成には、データの収集から帰納的に行う方法と、一定の思考の枠組みを構築してから演繹的に推論を重ねて行う演繹的な方法の二種類があるが、イラン核開発問題については2002年の発覚以来過去10年間にわたるデータの集積によって、ある段階までの主要アクターの行動の選択肢を論理的に推論したミクロな論点の解はすでに確立されつつあり、残された不確定要因をめぐって分岐するシナリオを演繹的に導くことが可能である。例えば、いくつかの問と解を、以下のように導くことも可能であろう。
問1.イスラエルの攻撃でイランの反撃はあるか
(1) イランはホルムズ海峡を封鎖するか
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾の出入り口を扼する世界で最重要のチョークポイントである。2010年のわが国の輸入原油の86.6%は中東原産であり、その約9割がホルムズ海峡を通過しているから、ホルムズ海峡の通航の自由は、日本にとって死活的な利益である。
(1) イランはホルムズ海峡を封鎖するか
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾の出入り口を扼する世界で最重要のチョークポイントである。2010年のわが国の輸入原油の86.6%は中東原産であり、その約9割がホルムズ海峡を通過しているから、ホルムズ海峡の通航の自由は、日本にとって死活的な利益である。
このホルムズ海峡を、イランが封鎖するかどうかという問題は、国際法的側面と軍事的側面の双方からアプローチしていく必要がある。国際法的にみると、ホルムズ海峡は国連海洋法条約によって定義された国際海峡(国連海洋法条約第37条)であり、たとえ外国軍艦であっても、沿岸国への事前通告またはその事前許可なしに自由に通過通航権(同条約第38条)を行使できる。したがって、イランがホルムズ海峡を封鎖することは、国連海洋法条約上あるいは慣習国際法上、全くの国際法違反と見なされる。
次に軍事的側面に着目すると、まずイランの持つ、いわゆるA2AD(Anti-Access and Area-Denial)能力が問題となる。ペルシャ湾におけるイラン軍およびイスラーム革命防衛隊(IRGC)と米軍との戦力差を考えると、イランは米軍との正面衝突を回避し、テロ、ゲリラ戦術を織り交ぜた非対称戦略で臨んでくるはずである。ホルムズ海峡封鎖に有効な手段は、やはり機雷敷設と小型の高速戦闘艇、あるいは最近能力を向上させている無人航空機によるゲリラ戦的な攻撃と、沿岸や島に配備されている短距離対艦巡航ミサイルによる海峡通過の妨害等であろう。現在では、イランは、ペルシャ湾とホルムズ海峡、オマーン湾までのごく限定された海域においてA2AD作戦を実行できる程度の十分な非対称戦力(潜水艦、小型高速戦闘艇、対艦ミサイル、無人航空機、そして機雷2000~3000個)を配備していると見られている。つまり、イランは、限定された期間内であれば、ホルムズ海峡を封鎖する能力を持っている。
具体的にホルムズ海峡封鎖が想定される場合の機雷処理については、イランが1度に700個の機雷を敷設した場合では、掃海に要する期間は約40日となる。イランによるホルムズ海峡封鎖は、欧米諸国による対イラン軍事行動のレッドラインとしてすでに明示されている。2012年7月1日からEUはイラン産原油の全面輸入禁止措置を実施しているが、7月1日以降、イランはホルムズ海峡封鎖を実行していない。欧米諸国がホルムズ海峡封鎖を対イラン攻撃のレッドラインと明示している限り、今後もイランが敢えてホルムズ海峡を封鎖する冒険に出てくる可能性は低い。また海峡封鎖は、イラン自身の原油輸出も妨げることになる。
(2) ヒズボラ、ハマスの反撃はあるか
図:主要な主体間の位置関係(筆者作成)
(地域における核抑止体制の現状変更) ・イラン
・サウジ
←(親イスラエル) |
・シリア
・アルカイダ
・ヒズボラ
・ロシア
・中国
・ハマス
・パキスタン
↓
← 核移転?
(親イラン)→ |
・トルコ
・EU(フランス、ドイツ)
・EU(イギリス)
・アメリカ
|
・イラク
|
・イスラエル
(地域における核抑止体制の現状維持)
(地域における核抑止体制の現状維持)
ヒズボラとハマスの対イスラエル反撃の可否については、最近のヒズボラ、ハマスから、イスラエルに対するロケット弾攻撃と、その報復としてのイスラエル側の反撃の有り様の事例が参考資料となる。こうした事例に鑑みると、イスラエルがイランを攻撃したからと言って、自動的にヒズボラが反撃するとは考えにくい。特にヒズボラにとって重要なスポンサーであるシリアのアサド政権が、国内の内戦で手一杯でイスラエルとの戦争に踏み切る余裕のない時期に、ヒズボラがイスラエル軍の対シリア報復攻撃を招きかねないようなイスラエルへの挑戦を簡単に行うことは合理的でない。
次に、ハマスの反撃については、2012年2月以後のハマスとイラン、シリア両国との関係悪化の問題と、同年11月に起きたガザ地区からイスラエルに対するロケット弾攻撃の再開、それに対するイスラエル空軍機によるガザ地区への報復空爆の問題とを、それぞれ独立に再検討する必要がある。2012年2月以降ハマスはイラン、シリアとの関係断絶に方針を転換し、親米スンニー派諸国との関係強化に軸足を移しつつある。それゆえ、イスラエルがイランの核施設を攻撃しても、ハマス軍事部門がイランの要請でイスラエルにロケット弾を発射することはないであろう。
問2.サウジアラビアは核武装しようとするか
サウジアラビアとしては、イラン、イスラエル両国が核武装した後の状況においては、自国も核武装するのが合理的な選択である。三者間で交渉することなく、長期間、下記の利得行列で表現されたゲームを繰り返すものとする。本来ならば利得の割引率を考慮しなければならないはずであるが、ここでは単純に、ゲームを行うごとに毎回同じ利得を獲得できるものと考える。三者の過去の実績から、三者の長期戦略は、
このゲームを何度繰り返しても、偶数回と奇数回のセットで獲得利得が相殺されるパターンが反復される結果となる。もし奇数回でゲームを終了すれば、三者の獲得する利得は、初回のゲームで獲得可能な利得だけを反映するので、(イラン、イスラエル、サウジアラビア)で(4,2,-2)となる。これではサウジアラビアが著しく不利であるため、ゲーム自体が成立しない。もし、ゲームが偶数回で終了した場合には、三者の獲得利得は(イラン、イスラエル、サウジアラビア)で(4-3,2-1,-2+3)=(1,1,1)で均衡する。これが望ましい結果である。その場合は、ゲームはイランのC(核兵器の先制不使用宣言)、イスラエルのD(核兵器の保有宣言)、そして、サウジアラビアのD(核武装)の戦略が、それぞれ選択されて終了する。
問2.サウジアラビアは核武装しようとするか
サウジアラビアとしては、イラン、イスラエル両国が核武装した後の状況においては、自国も核武装するのが合理的な選択である。三者間で交渉することなく、長期間、下記の利得行列で表現されたゲームを繰り返すものとする。本来ならば利得の割引率を考慮しなければならないはずであるが、ここでは単純に、ゲームを行うごとに毎回同じ利得を獲得できるものと考える。三者の過去の実績から、三者の長期戦略は、
イランは、「逆しっぺ返し」(reverse Tit-for-Tat)戦略をとるものとする。この戦略では、初回は裏切るが、2回目のゲーム以降、前回相手が協調していれば自分も協調し、相手が裏切っていれば自分も裏切る。
イスラエルは、「トリガー」戦略をとるものとする。この戦略では、相手が裏切るまでは自分も協調し続けるが、相手が1度でも裏切ったら、永久懲罰として自分も裏切り続ける。
サウジアラビアは、「しっぺ返し」(Tit-for-Tat)戦略をとるものとする。この戦略では、初回は協調し、2回目のゲーム以降、前回相手が協調していれば自分も協調し、相手が裏切っていれば自分も裏切る。
表A: 三者間繰り返しゲームの利得(筆者作成)
パターン反復1 パターン反復2 パターン反復3
↑→→↓ ↑→→↓ ↑→→↓ ↑→
1回目
|
2回目
|
3回目
|
4回目
|
5回目
|
6回目
|
7回目
|
8回目
| |
イランの戦略
|
D
C C |
C
D D |
D
D C |
C
D D |
D
D C |
C
D D |
D
D C |
C
D D |
イスラエルの戦略
| ||||||||
サウジアラビアの戦略
| ||||||||
イランの利得
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4
2 -2 |
-3
-1 3 |
3
1 -3 |
-3
-1 3 |
3
1 -3 |
-3
-1 3 |
3
1 -3 |
計4
計2
計-2
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イスラエルの利得
| ||||||||
サウジアラビアの利得
|
問3.中東における核抑止体制は確立できるか
表B:イラン、イスラエル、サウジアラビアの戦略と利得の一覧表(筆者作成) 注 C:協調D:裏切り
イラン
|
イスラエル
|
サウジアラビア
|
利得ベクトル
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C: 核兵器の先制不使用宣言
C: 核兵器の先制不使用宣言 D: 反シオニズム・地域覇権主義
D: 反シオニズム・地域覇権主義
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C: 核曖昧政策の継続
D: 核兵器の保有宣言
C: 核曖昧政策の継続
D: 核兵器の保有宣言
|
C: 非核武装の継続
C: 非核武装の継続
C: 非核武装の継続
C: 非核武装の継続
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(2,4,1)
(-1,3,0) (4,2,-2) (3,1,-3) |
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C: 核兵器の先制不使用宣言
C: 核兵器の先制不使用宣言 D: 反シオニズム・地域覇権主義
D: 反シオニズム・地域覇権主義
|
C: 核曖昧政策の継続
D: 核兵器の保有宣言
C: 核曖昧政策の継続
D: 核兵器の保有宣言
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D: 核武装
D: 核武装
D: 核武装
D: 核武装 |
(-2,0,4)
(-3,-1,3) (1,-2,2) (0,-3,-1) |
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表C: 三者間の戦略形ゲームの利得行列(筆者作成)
サウジアラビアの戦略オプション
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|||||
C
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D
|
||||
イスラエルの戦略オプション
|
イスラエルの戦略オプション
|
||||
C
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D
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C
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D
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||
イランの
戦略オプション
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C
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(2,4,1)
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(-1,3,0)
|
(-2,0,4)
|
(-3,-1,3)
|
D
|
(4,2,-2)
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(3,1,-3)
|
(1,-2,2)
|
(0,-3,-1)
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三者の支配戦略が交わる点DCDの利得ベクトル(1,-2,2)が支配戦略均衡点となる。同時にDCDは、他のプレイヤーの戦略を所与とした場合に、どのプレイヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利得を得ることができない戦略の組み合わせであり、三者は戦略を変更する誘因を持たない。したがって、DCDはナッシュ均衡でもある。このゲームがただ1回限りで終了するならば、イランが核武装後に反シオニズム・地域覇権主義の姿勢を堅持する状況下で、「イスラエルは現行の核曖昧政策を続ける」、そして「サウジアラビアは核武装を目指す」、という命題が解となる。
問4.イスラエルは現行の核曖昧政策を続けるか
道義的には、イスラエルの核に関する透明性を高め、国際的責任を負わせる点でイスラエルが曖昧政策を破棄することが望ましい。一方、イスラエルが曖昧政策を捨てて明示的な抑止戦略に移行するとしても、相手のイランやアラブ諸国の意図が必ずしも明確でない状況では、非対称で不均衡な核抑止体制しか構築できない可能性も大きい。そして、現状のイランの核計画は、イスラエルに対する抑止力ではなく、むしろ地域で覇権を獲得することを第一の目的としているように見える。イランの目的が地域覇権の獲得ならば、イランは核兵器による脅しを背景に、パレスチナとペルシャ湾岸の過激派組織を支援するかもしれない。核抑止戦略は、テロ組織による攻撃や通常戦を抑止する効果を持たないから、イスラエルは通常戦力の優位を確保し続けなければならない。その一方で、イランとの核戦争に発展しかねないような、通常戦力による広範囲の軍事行動を差し控えなければならない矛盾に陥ることになる。
また、イスラエルが自国の核戦力と戦略ドクトリンを明示することは、エジプト等周辺アラブ諸国を大いに刺激することは間違いない。イスラエルが核保有を公式に表明すれば、核不拡散条約(NPT)から脱退するとアラブ諸国は牽制している。こうした展開は、イスラエルにとって安全保障上のジレンマとなるから、明示的な抑止戦略に移行するより現行の曖昧政策を続ける方が、イスラエルにとってむしろ得策である。
問5.イラン、イスラエル、サウジアラビアの核軍備管理交渉は可能か
この問題については、プレイヤー三者の最近の軍事費のデータを基に三人協力ゲームの特性関数形ゲームを定義して、そのプレイヤー間の提携の最大の不満を最小化するような利得の配分、すなわち仁(nucleolus)を解として求める。重要なことは、プレイヤー間でどのような提携が結ばれて、その結果獲得された利得をプレイヤー間でどのように配分すべきか、ということである。提携とは、協力関係を結んだプレイヤーの集合のことである。そして、各提携に対して、提携外のプレイヤーの行動に関わらず獲得可能な利得の総和の最大値を与える関数を、特性関数と呼ぶ。
(1) 三者の望ましい軍事費負担の解(仁の計算)
プレイヤーの集合N={イラン、イスラエル、サウジアラビア}である。以後、N={IR, IS, SA}と表す。
表D. 各プレイヤーの軍事費およびその平均(2002-2011年)注 単位:億ドル(小数点以下四捨五入)
02
|
03
|
04
|
05
|
06
|
07
|
08
|
09
|
10
|
11
|
||
IR
|
65
|
80
|
98
|
121
|
135
|
110
|
74
|
n/a
|
n/a
|
n/a
|
平均 (7年)
98
|
IS
|
160
|
160
|
153
|
147
|
157
|
152
|
146
|
147
|
142
|
152
|
平均(10年)152
|
SA
|
243
|
245
|
273
|
328
|
374
|
431
|
423
|
435
|
452
|
462
|
平均(10年)367
|
出典:The SIPRI
Military Expenditure Database, <http://milexdata.sipri.org/result.php4>.
各プレイヤーの期間中の平均軍事費は、概算すると、IR=98≒100、IS=152≒150、SA=367≒350で、平均して約600億ドルが、3者が毎年負担する軍事費の総和である。いま、計算を簡単にするために、各プレイヤーの平均軍事費をそれぞれ50で除すると、各プレイヤーのコスト負担はIR:IS:SA=2:3:7の比となる。そこで、特性関数v(IR・IS・SA)=2+3+7=12とする。
N={IR,
IS, SA}
v(IR・IS・SA)=2+3+7=12
v(IR・IS・SA)=2+3+7=12
v(IR・IS)=3-2=1
v(IR・SA)=7-2=5
v(IS・SA)=7-3=4
v(IR)=v(IS)=v(SA)=0
(※単独提携では利得を獲得できない。)
利得配分の集合A={利得ベクトルX=(Xir,
Xis, Xsa)|Xir+Xis+Xsa=12(全体合理性),
Xir, Xis, Xsa≧0(個別合理性)}
この条件の下で、イラン、イスラエル、サウジアラビアの三者は、どのように協力し、軍事費を分担すべきだろうか。いま、2つの配分について、それぞれ各提携の全員提携に対する不満を、大きいものから順に並べたベクトルを作って大きな成分から比較する。最初に異なる成分のより小さいベクトルの方が、より受容的である。そして、それ以上、より受容的な配分が存在しないような配分の全体を仁(nucleolus)と呼ぶ。したがって、仁は、最大の不満を最小にする、各プレイヤーにとって望ましい配分である。そこで、本章の事例における仁を求めると、X=(4, 3.5, 4.5)となる。計算の初めに50で除したので50倍すると、(200,
175, 225)がイラン、イスラエル、そしてサウジアラビア三者の、最大の不満を最小化する望ましい軍事費負担ということになる。
(2) 仁を達成するための三者の軍備管理交渉は成り立つか
イラン、イスラエル、サウジアラビアの望ましい毎年の軍事費の配分額(仁)は、イランが約200億ドル、イスラエルが約175億ドル、そしてサウジアラビアが約225億ドルである。これは、イランは毎年の軍事費の支出を約2倍に増額し、イスラエルは約25億ドル、すなわち、毎年イスラエルがアメリカから受領している軍事援助総額に相当する額の軍事費を増額しなければならないことになる。その一方で、サウジアラビアは、年平均で約125億ドルもの軍事費削減を実現しなければならないことになる。仮にこれが望ましい金額だとしても、実際に三国の軍備管理または軍縮交渉では実現できないだろう。したがって、この問題についての解は、「三国の軍事費配分の大幅な見直しを伴う場合には、不可能である」。
問6.中東ペルシャ湾岸地域における核拡散が起きるか
これまでの考察を総括すると、以下の結論が得られるだろう。
(1) 「イランの核武装化を止められるか」→「核武装化を止められない」
(1) 「イランの核武装化を止められるか」→「核武装化を止められない」
(2) 「ヒズボラ、ハマスの反撃はあるか」→ヒズボラ「反撃の可能性は否定できないが、自動的に行われることはなく、その時のシリア情勢等ヒズボラ周辺の情勢如何による」→ハマス「イランの要請に従って反撃が自動的に行われることはなく、ハマスの対イスラエル攻撃が再開されるかどうかは、ハマス独自の判断に基づいて行われる」
(3) 「イランはホルムズ海峡を封鎖するか」→「恐らくしない」
(4) 「イスラエルは現行の核曖昧政策を続けるか」→「イスラエルは現行の核曖昧政策を続ける」が、「サウジアラビアは核武装を目指す」
(5) 「イラン、イスラエル、サウジアラビアの核軍備管理交渉は可能か」
→「三国の軍事費配分の大幅な見直しを伴う場合には、不可能である」
以上の結論から推論すれば、「地域に核拡散は起きるか」どうかについての解は、「地域に核拡散は起きる」であろう。その理由は、(1) イランの核武装化を止められず、(2) イスラエルが核の曖昧政策を続けるとともにサウジアラビアが核武装を目指す環境が醸成され、(3) イラン、イスラエル、サウジアラビアの核軍備管理交渉が必ずしも期待できない状況にあっては、サウジアラビアのみならず、エジプトやトルコも自国の核武装を恐らく検討すると思われるからである。
このように、中東地域に核拡散が起きる最悪のシナリオが導かれると想定した場合、地域の安定を図るためには、イランの核武装化を国際社会が何としても阻止しなければならないだろう。
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