『文藝春秋』6月号に、内閣官房参与でイェール大学名誉教授の浜田宏一先生が「アベノミクス三年目の批判に答える」と題した文章を寄稿されている。自分も興味があったので読んでみたのだが、最初の分析から浜田さんの認識に事実誤認があるように思えてならない。
例えば、浜田先生は2011年に300万人以上いた日本の失業者が、アベノミクスの結果雇用が拡大したため、2014年には200万人台に減って成果を上げたとされている。
しかし、2012年から14年は戦後第一次ベビーブーマーの「団塊の世代」が65歳を迎えて、丁度退職した時期と重なっている。つまり、大量の退職者が出て、企業が雇用を拡大するのはある意味で当然な時期だったのだ。これをアベノミクスのリフレ政策の成果と見なすのは、かなり牽強付会な議論ではないだろうか。
また、厚生労働省が5月1日に発表した3月の毎月勤労統計調査(速報)によると、物価変動を考慮した実質賃金は前年比マイナス2.6%で、23か月連続でマイナスを記録している。つまり、この間の勤労者の懐は、名目賃金の上昇では全然潤っていないわけだ。
浜田さんは、それは消費税3%増税の結果と分析されていたが、本当だろうか。もっと日本経済が抱える構造的要因があるのではないか。
例えば、日本の完全失業率から需要不足失業率を除いた構造的・摩擦的失業率、すなわち雇用のミスマッチによる失業率は、ほぼ3.4~5%位に高止まりしており、総務省統計局が5月1日に公表した3月分の労働力調査(基本集計)を見ると、完全失業率は3.4%となっている。
つまり、この統計が正しければ、需給ギャップによる需要不足失業は、既に日本には存在しないという理屈になるはずだ。であるならば、これ以上の追加金融緩和で需給ギャップを埋めても、何の意味もないのではないだろうか。
ところが浜田先生は、日銀のインフレターゲット2%未達の原因は、昨年来の予想外の原油価格下落のためであり、総務省が出した需給ギャップ統計マイナス2.2%まではいかないだろうが、まだ1%程度の需給ギャップがあるかもしれないから、追加金融緩和の余地があると述べている。
これは、正直言って、日本経済にとって副作用の危険が大き過ぎるだろう。浜田先生ご自身が指摘されているように、折角幸運な昨年来の原油価格下落のおかげで、インフレの痛みが軽減されているというのに、もし仮に原油価格が再上昇し始めたら、追加緩和の副作用として「不況下の物価高」、スタグフレーションに日本を陥らせかねない危険を伴っているからである。
日銀辺りでは、最近、日本の本当の構造的失業率は2.5%位であると低く見積もることで、まだ需要不足失業が残っているとして、改めて追加緩和の根拠にしようとする意見も出ているらしいが、これって、相当無理筋の論理の展開ではないだろうか。
自分には、リフレ派の主張する無理やりインフレを起こして庶民の生活を逼迫させる必要が、今の日本に本当にあるのか、大いに疑問を抱いている。
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