2015年5月16日土曜日

中東安全保障体制の確立に向けた現実的課題についての分析

 5月14日、米国キャンプ・デービッドの大統領別荘で前日から行われていた米・GCC諸国首脳会談が、主として米国とGCC間の安保協力強化を謳う共同声明を出して閉幕した。

 そもそも今回のサミットはオバマ米大統領の招待によるものだが、GCC6カ国のうち、国王・首長の本当の首脳が出席したのはクウェートとカタールだけで、他の4カ国は皇太子や副首相といったナンバー2が代理出席しただけであった。これは極めて異例のことであり、GCC諸国がオバマ米政権の最近の中東に対する外交姿勢に強烈な不信感を示したものと言わざるを得ないだろう。

 共同声明の内容で注目すべき点は、以下の2つである。まず、アメリカが、GCC諸国に対する外部からの脅威に対しては湾岸戦争の時と同様に軍事力を用いてもそれを抑止し、また対抗するという、GCC諸国の国益擁護のコミットメントを再確認した点である。

 アメリカは、実は第二次世界大戦中、当時のフランクリン・ルーズベルト大統領が1945年2月のヤルタ会談の帰途サウジアラビアのイブン・サウード国王と会談して、既にサウジアラビアの安全保障に対してコミットメントを与えている。両国の事実上の同盟関係は、70年間の長期にわたって揺るぎないものだったわけである。

 それが、オバマ政権の昨年来のイランに対する接近で、サウジアラビアなどGCC諸国からアメリカのコミットメントの信頼性について本当に不信感を抱かれていることが、今回のサミットへの国王らの欠席で表明されたのである。そうしたGCC側の懸念を和らげるための、共同声明におけるアメリカのコミットメント再確認であったのだろう。

 注目すべき第2の点は、GCC諸国でのミサイル防衛(MD)体制を構築するための協力を進めることが確認された点である。5月14日の共同声明では、米・GCC の戦略的パートナーシップとして、武器移転の迅速な追跡、対テロリズム、 海洋安全保障、サイバーセキュリティー、そしてミサイル防衛について協力を強化していくことが確認されたが、MD以外の4つは、中東ペルシャ湾岸の安全保障問題に限らず、いわば昨今の国際安全保障上当然の課題を再確認しただけであって、極めてありきたりの内容に過ぎない。

 ところが、中東MD構想については、明らかにイランの核と弾道ミサイル開発に対するGCC諸国の対抗意識を意識したもので、興味深い。

 MDというと、日本ではパトリオットPAC-3による北朝鮮の弾道ミサイル発射への警戒措置の発動がまずイメージされると思うが、実はこれは、MDの効果という点では非常に限定された、終末段階の防御態勢を見せているに過ぎない。

 MDシステムは、主としてアメリカの偵察衛星に依存した早期警戒システムを確立することが大前提の条件であり、今回の米・GCCサミットで確認された点も、まず早期警戒システムをアメリカとGCC諸国の間で構築することに関してその実行可能性を研究するという、最初期段階の合意が出来たということだろう。

 その意味で、現在の中東の安保体制は、核に関してはイスラエルとイランの二極体制構築に向かっており、通常戦力ではイスラエルの圧倒的な優位、テロ支援など非対称戦力ではイラン優位の形勢であって、この2つの勢力に対抗しなければならないサウジアラビアなどGCC諸国は、依然としてアメリカの軍事的コミットメントに頼らざるを得ない状況なのである。

 現実的は、GCC諸国は日本と同様に、アメリカの核の力による拡大抑止(いわゆる「核の傘」)体制に組み込まれる方向性を模索していくしか、イスラエルとイランの二極体制に対処する方法がないだろう。

 それにしても、実効性のあるMD体制を構築するためには、莫大な支出を必要とするのだが、産油国で資金豊富なGCC諸国であれば、その点に関する不安はあまり感じないのであろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿